業種は違っても
経営者として
大切なことは同じ

編集部 業種は違っても、経営者にとって街から学ぶことは多いんですね。

杉本 どんな業種でも、経営者の仕事は基本的に同じですからね。理念を示し、サービスを提供していく。損益計算書(PL)や貸借対照表(BS)などの財務諸表を見て、よりよい会社を創っていく。そのために、自分の足と目で情報収集するのは不可欠だと思いますよ。

田中 経営という意味で言うと、リーマンショック以降の杉本さんの様子を見ながら、僕自身、とても考えさせられました。民事再生を経て、ある時から一緒に飲んでいる時にも「FRBがどうした」とか、マクロ経済の話をするようになったでしょ。エスグラントでの失敗を踏まえて構築した新しいビジネスモデルの話とか、とても面白いと感じています。

杉本 ありがとうございます。

田中 「どうやって勉強したの?」とか、飲みながら話していても楽しいし、参考になる。たまに、カマかけて世界経済の質問してみたりするんですけどね。

起業家対談シリーズ第5回 田中良和<br />友の苦しみになぜ気づけなかったのか、と涙が流れた杉本宏之(すぎもと・ひろゆき)[起業家]1977年生まれ。高校卒業後、住宅販売会社に就職、22歳でトップ営業となる。2001年に退社し、24歳でエスグラントコーポレーションを設立。ワンルームマンションの分譲事業を皮切りに事業を拡大し、総合不動産企業に成長させる。2005年不動産業界史上最年少で上場を果たす。2008年のリーマンショックで業績が悪化、2009年に民事再生を申請、自己破産。その後再起し、エスグラントに匹敵する規模にグループを育て上げた。2014年7月、復活を果たしたのを機に著書『30歳で400億円の負債を抱えた僕が、もう一度、起業を決意した理由』を刊行した。

杉本 それで、僕がさんざん説明した後で「俺だってそのくらいわかってるよ」とか言うんですよ。じゃあ、聞くんじゃないよって(笑)。

田中 ともあれ、資金にレバレッジを効かせて運用する不動産ビジネスには、大きな意味で金融との結びつきは強いから。経済の大きな流れを理解して読んでいかないと、大きな成功を手に入れるのは難しいと思いますからね。読み間違えることはあるだろうけど、読もうとさえしないのはダメで、街を見ながら、世の中がどうなっているかを自分で読み解いていくことは大事だと思います。

杉本 たしかに、大きな失敗を経て、自分たちの業界だけ見ていても成功できないということは痛感しました。最近はようやく、たとえば銀行との交渉でも自分の持論をロジカルに説明できるようになりました。

田中 へえ、そうなんだ。

杉本 たとえば、先日もプロジェクト資金で、ある銀行から5億円ほど借り入れをすることになった。ところが金利が我々の想定よりも0.25%高いオファーが来ました。以前の私なら何の疑問も持たずにディールを決断したと思いますが、なぜこのこの金利になったのか? 同業者と比べて当社の優良な財務内容や他行からどのような条件で借り入れをしているかなど、ロジカルに金利交渉を行い、最終的に融資数日前に0.25%の金利を下げて頂きました。

 交渉前には財務の部長や社長でさえ、もしもブレイクしたらどうなるかと言って、交渉にタジタジだったのですが。銀行と聞くと、融資を受ける側は過度に立場を意識してしまいがちですが、結局はビジネスパートナーであり、立場は対等でなければいけないと思います。この経験を通じて、経営ってこういうことなんだなと改めて感じましたね。