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アマデウスたち

辻井伸行
鋭敏な聴覚が生む繊細な響き

週刊ダイヤモンド編集部
【第28回】 2008年5月9日
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辻井伸行
写真 加藤昌人

 詩情溢れる音色を奏でていた指が鍵盤から離れた瞬間、熱狂的な拍手が会場に轟いた。選考会としては異例の、4度にわたるカーテンコール。2年前、ワルシャワで開かれた、ショパン国際ピアノコンクールでの出来事だ。

 世界最高峰のこの舞台で、17歳という最年少の参加ながら「批評家賞」を受賞した。すでに名立たるオーケストラとの共演や米カーネギーホールをはじめとする大舞台での演奏会を経験していたが、「いつもとは違う」聴衆の熱狂に圧倒されたという。

 小学生の頃から「天才ピアニスト」「神童」と称された。だがその才能にいちばん驚嘆したのは、“最初の聴衆”である母だろう。台所で口ずさんでいたハミングに合わせ、2歳のわが子が突然、おもちゃのピアノで「ジングルベル」を淀みなく弾いたのだ。生まれつき全盲で、ハイハイさえほかの子より遅かった。だが、あっという間に、和音も弾き分けるようになった。

 コンサートで弾く難曲にも、点字の譜面はない。新しい曲は耳で覚える。「音を聴き分けたら自然に指が動く感覚」。研ぎ澄まされた聴覚が、楽譜に表し切れない繊細な間合いまで感じ取り、独特の響きを生む。佐渡裕ら「辻井ファン」を公言する著名な音楽家たちは、そこにしびれるのだという。

 2007年10月にCDデビュー。幾度か誘いを受けたが、「機が熟してから」と固辞してきた。早熟さに甘んじず、清々しい。

(ジャーナリスト 古川雅子)

辻井伸行(Nobuyuki Tsujii)●ピアニスト。1988年生まれ。1995年「全日本盲学生音楽コンクール」ピアノの部優勝。1998年、大阪センチュリー交響楽団と共演しデビュー。2007年上野学園大学に進学。2007年10月24日にデビューアルバム「debut」を発売。

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