トヨタが生産現場の改革を終え、凍結していた工場新設を再開する。メキシコの「へそ」に位置するグアナファト州に年間20万台規模の新工場を建設(総投資額約10億ドル)、2019年からカローラの生産を開始する。「週刊ダイヤモンド」では昨年11月、「タイを越える自動車生産拠点 メキシコ大躍進」と題した特集において、トヨタのメキシコ本格進出を示唆。ここでは、現地取材を徹底敢行した特集の一部を改めて公開する。(文・撮影/「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史)
「次はトヨタの番だ」──。今、メキシコの自動車業界は、そんな話題で持ちきりだ。近く、トヨタ自動車もメキシコに本格的に進出してくるはず、というのである。
理由は単純だ。並み居る自動車メーカーがメキシコの競争力を認識して生産能力を増強する中、トヨタは依然、米国との国境付近に米国向けピックアップトラック「タコマ」の生産工場を構えるのみ。しかも、生産能力は約5万6000台にすぎないからだ。
そればかりではない。トヨタの北米拠点に目を向ければ、米国に構える4工場はすでに能力が逼迫している。その上、富士重工業に委託していた中型セダン「カムリ」の10万台の生産契約も終了し、2016年第2四半期からすっぽりなくなる。
しかし、「トヨタにも事情がある」(メキシコ政府関係者)。2000年代に急ピッチで工場建設を進めたトヨタは、リーマンショック後の需要減に対応し切れず、09年3月期には4000億円を超える戦後初の営業赤字に転落。その反省から、「16年3月までは、原則として国内外の工場新設を凍結する」と宣言しているのだ。
もっとも、用地決定から稼働までには少なくとも1年半~2年はかかるため、「そろそろ本格進出を発表するころなのでは」との見方は少なくない。メキシコ政府関係者によれば、「トヨタ幹部はメキシコを訪問した際、自動車産業の集積ぶりに感心していた」という。
今やメキシコの自動車生産台数は年間約300万台(13年)で、世界8位の座を築いている(図1‐2参照)。今年は7位のブラジルを上回り、中南米では堂々の1位に輝く見込みだ。すでに日系メーカーがひしめくアジアの生産拠点、タイをも上回る規模である。
輸出拠点として見れば、なお発展していることがうかがえる。自国メーカーを抱えるドイツ、日本、韓国に次ぐ、世界4位という実力を誇るのだ。
メキシコは既述の通り、米国やカナダとの北米自由貿易協定(NAFTA)だけでなく、中南米や欧州、日本などと自由貿易協定(FTA)を締結している。外資系企業による直接投資の誘致にも積極的だ(週刊ダイヤモンド2014年11月15日号特集内の「メキシコの魅力はこうして伸ばす!」参照)。