普段から仲の悪い兄弟はいます。でも、遺産相続をめぐって諍いが起こるのは、たいてい親が亡くなり、相続が発生した後のこと。「あんなに仲のよかった子どもたちが……」というパターンが、非常に多いのです。そうならないためには「生前の準備」が必要だといわれますが、では、どうして「準備」はなかなか進まないのでしょう? 円満な相続を実現するコツは何なのか? 相続に詳しい斎藤英一税理士(税理士法人斎藤会計事務所)に聞きました。

相続税がかからない「少額」でも揉める

斎藤 遺産相続をめぐる争いというと、大富豪の一家みたいなのを想像しがちだと思うんですが……。

親と子では、「見ている時間」が違うのです<br /><div class="special-box-body"><sub>~相続における「親の心子知らず」を防ぐ秘訣はどこに?</sub></div>斎藤英一氏
税理士/税理士法人斎藤会計事務所所長
1988年の事務所開業直後から会社設立支援に力を入れ、創業・融資・事業拡大と100社を超える経営計画のサポ-トを行う。近年は高齢の親を持つ子世代を対象にしたWebサイト「オヤノコト.net」で自らの体験を生かした相続人向けの相続について連載。またハウスメ-カ-や銀行主催の相続税セミナ-講師も務める。著書に『親子で進める二世帯住宅節税』(幻冬舎)など。

八木 実際は違うんですね。

斎藤 表を見てください。相続争いが裁判所の調停に持ち込まれて、それが成立した案件の数なのですが、なんと75%は遺産が5000万円以下でした。統計は2012年のもので、相続税の基礎控除(*)が引き下げられる前だから、遺産が5000万円というのは、無条件で相続税がかからない水準なんですよ。

八木 にもかかわらず、これだけ多くの相続が、調停まで行ってしまう。まさに「相続税問題と相続問題は違う」ということが、よく分かる数字ではないでしょうか。「いくらもらえるのか」もさることながら、その前に、相続人の間の様々な感情が前面に出てくるわけですね。

斎藤 そう思います。前回紹介したのとちょっと似たところがあるのですが、こんな事例がありました。相続人は、親と同居する息子さんと、お嫁に行った娘さんの二人。まずお父さんが亡くなったのですが、その時には遺産のほとんどをお母さんが相続し、息子さんにも少し渡りました。娘さんにはゼロです。娘さんは、「兄は親と同居してるし、まあいいか」という感じだったんですね。
 ところが、お母さんが亡くなった相続では、「私も言わせてもらうわ」というふうに、姿勢がガラリと変わったのです。ちなみに、相続財産は、自宅を含めて3500万円ほどでした。

八木 娘さんにとっては、遺産を手にする最後のチャンスでもあるし……。

斎藤 息子さんの話し方も、彼女の怒りの炎に油を注いでしまったんですよ。「おふくろは、『お前が心配だから、遺産は全部やる』と言っていた。ずっと親と同居してきたのだし、僕が100%もらって当然だろう」と。娘さんのほうは、「そんな話、聞いたことがないわよ!」と一歩も引かない構えで、トラブルになってしまいました。

親と子では、「見ている時間」が違うのです<br /><div class="special-box-body"><sub>~相続における「親の心子知らず」を防ぐ秘訣はどこに?</sub></div>


* 相続税の基礎控除 「遺産総額がここまでなら、相続税がかからない」というボーダーライン。2015年1月から、「3000万円+600万円×法定相続人の数」と、それまでより4割引き下げられた。