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黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史

「負け組編集長」の自慢話はホラばかり!
中高年の劣等感で澱む出版社(下)

吉田典史 [ジャーナリスト]
【第27回】 2015年8月11日
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>>(上)より続く

 「著者」の氏名をフルネームで堂々と語る、力の入れ方だった。「著者」がいながら、なぜ編集者が書くのかは、一部で「代筆」が行なわれているという業界の実情を知らない人には、理解しがたいだろう。本来は隠すべきことかもしれないが、編集長はひるまなかった。それにしても、1冊200ページの本を書き終えるのに「4日」や「6日」は、ホラの吹き過ぎである。それほどに劣等感が強いのだろう。

 「書き上げた」というのも、胡散臭い。正確には、著者やライターが書き上げたものを多少、手直しをしたに過ぎない。「4日」や「6日」でできることは、たかが知れている。

異様に膨張するコンプレックス
そして、誰もいなくなった――。

 この編集長に限らないが、一部の編集者には「書くこと」に根強いコンプレックスや、それとは裏腹に憧れの思いがある。特にこの編集長のように、若かりし頃、全国紙や通信社の記者になりたかった者は、驚くほどに「書くこと」に執着する。

 しかし、出版社の編集者の「書く力」が、通信社や全国紙の記者職のレベルになることは難しい。そんな人材育成のノウハウはなく、体制や環境も整っていない。たとえ記者がいたとしても、それは出版社の「記者」であり、全国紙や通信社の記者との間には、取材力や執筆力において、克服しがたい差がある。

 だからこそ、劣等感は一層屈折したものになる。ましてや、この編集長のように昇格で遅れをとり、落ちこぼれ寸前になると、コンプレックスは異様なまでに膨れ上がる。

 編集長は食堂で酔っぱらいのように話し続ける。「あの人の本は、実は俺が書いた。5日くらいで……。みんなに言わないでね……」

 いつしか、隣の学生たちはいなくなっていた。

 こんなレベルでありながら、現在の出版社で、編集長という部長級の社員になることができたのはなぜか……。それは、他になり手がいないからだ。

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吉田典史 [ジャーナリスト]

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年からフリー。主に人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。著書に『あの日、負け組社員になった・・・』『震災死 生き証人たちの真実の告白』(共にダイヤモンド社)や、『封印された震災死』(世界文化社)など。ウェブサイトでは、ダイヤモンド社や日経BP社、プレジデント社、小学館などで執筆。


黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史

 ここ10数年の間に社会環境が大きく変わり、人々のホンネとタテマエに対する価値観が揺らぎ始めている。それを具現化しているのが、今の企業の職場ではないだろうか。これまでは、ホンネとタテマエが絶妙にバランスしながら、人間関係が維持されてきた。しかし、企業社会において生き残り競争が激化し、「他人より自分」と考えるビジネスパーソンが増えるにつれ、タテマエを駆使して周囲を蹴落とそうとする社員が増えている。

 誰もが周囲を慮らなくなり、悪質なタテマエに満ち溢れた職場の行きつく先は、まさしく人外魔境。そこで働く社員たちは、原因不明の閉塞感や違和感、やるせなさに苛まれながら、迷える仔羊さながらに、次第に身心を蝕まれて行く。この連載では、そうした職場を「黒い職場」と位置づけ、筆者がここ数年間にわたって数々のビジネスパーソンを取材し、知り得たエピソードを基に教訓を問いかけたい。

「黒い職場の事件簿~タテマエばかりの人外魔境で生き残れるか? 吉田典史」

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