創続総合研究所

“先妻の子vs後妻の子”のバトル
~「安心の事業承継」のために、遺言書に明記すべき2つのこと

相続になったとたんに、亀裂が走る

八木 それにしても、先妻の子たちと後妻の子どもは、父のつくった会社を危機にさらしても争うほど、以前から仲が悪かったんですか?

古川 必ずしも、そんなことはなかったと思うのですよ。実は、後妻の長男も工場長として会社に入っていて、表面上は力を合わせて頑張っていこう、という雰囲気でしたから。やはり、父親が明確な意思を示さないまま、急に相続になった、というのが大きかったですね。恐らく、前々からちょっとしたわだかまりのようなものは抱えていたのでしょう。それが表に出て、先妻と後妻の子ども同士が自然に結束し、だんだんエスカレートしていった。

 私も、「ここまでやるか」と思ったのですが、後妻の次男のところには、40代で定職を持たない子どもが一人いたんですね。後妻側からは、彼を入社させてもらいたい、という要求もありました。さすがに、それは突っぱねましたけど。

八木 まさに、言いたい放題という感じ。

古川 先妻側も黙ってはいない。彼らは彼らで、「後妻が親父の財産を隠しているのではないか」と疑心暗鬼になっていました。この案件は、相続税の申告後に、税務調査(*2)を受けることになったんですね。へたをすると追徴課税される可能性があるのだから、相続人にとっては、好ましい事態ではないはず。ところが、先妻側の子どもたちは、税務署に対して「徹底的に調べて、不審な点があったら教えてほしい」と。納税者からそんな「お願い」をされることは、まずありませんから、税務署も面食らったことでしょう(笑)。

「よきにはからえ」の失敗

八木 相続になると、そこまで感情がもつれる、ということだと思います。先生としても、そうならないためのアドバイスを、いろいろなさっていたと思うのですが。

古川 もちろん、遺言書の作成などを強く勧めました。ご自身は、事業を一代で築いた“カリスマ”で、外部の人間の言うことを「聞き流す」傾向もあるのかな、と感じたので、肉親であるご長男にも、「会長としっかり話をしてください」とお願いしたのですが……。やはり、社長の話も、真正面から受け取ってはいただけなかったようです。

 たぶんご本人は、「俺がここまで会社を大きくした。子孫に財産も残した。あとは子どもたちがうまくやるだろう」というくらいの、“大らかな”気持ちでいたんだと思います。「先妻・後妻のわだかまり問題」も、後妻の子を入社させることで手を打った、という気持ちだったのかもしれません。

八木「あとはよきにはからえ」と。ところが、子どもたちの受け止めは、父親とは違っていたわけですね。あらためて、何が必要だったのか、教えてください。

古川 繰り返しになりますけど、やがて事業承継を迎える方には、「自分の持つ自社株と事業資産。この二つは、事業の継承者に譲る」という内容の遺言書を必ず残すよう、申し上げています。それさえできれば、とりあえず、経営基盤に問題は生じないでしょう。あとの税金のことだとかは、我々プロに任せてくれればいいのです。

八木 相続と事業承継の形はさまざまなれど、外してはならないポイントがある、ということを理解することが大事ですね。

*2 税務署が、納税者の申告内容を帳簿などで確認し、 誤りがあれば是正を求める一連の調査のこと。すべての申告について行われるわけではない。

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八木美代子 [株式会社ビスカス代表取締役]

早稲田大学卒業後、リクルート入社。1995年に株式会社ビスカスを設立。税理士を無料でご紹介するビジネスモデルを日本で初めて立ち上げ、現在まで10万件以上のマッチングを実現。相続に強い税理士のみを集めたサイト「相続財産センター」を運営し、相続コーディネーターとしても業界ナンバーワンの実績を誇る。著書に『相続の現場55例』(ダイヤモンド社)、『相続、いくらかかる?』(日経BP社)、『相続は『感情のもつれ』を解決すればお金の問題もうまくいく』(サンマーク出版)などがある。
株式会社ビスカス

 


相続の現場~争いから学ぶハッピー相続術

相続の別名は、「争続」。仲の良かった兄弟姉妹が親の遺産を前に骨肉の争いを演じるというのは小説やテレビドラマの中だけの出来事ではないようです。諍いの中心はもちろん「お金」。ですが兄弟姉妹には、他人がうかがい知ることのできない「本音」「思い」があるようで……奥底にある「心の綾」を解きほぐすと争いから一転、分かりあえるのが家族。そうした「ハッピー相続」の例を解説します。

「相続の現場~争いから学ぶハッピー相続術」

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