「幸せ食堂」繁盛記
【第十二回】 2015年9月24日 野地秩嘉

新橋・烏森口の大衆中華料理店で、
餃子の逸品と、意表を突く味に出会う

二日目のカレー、二日目の水餃子

「大連では餃子を食べるときは家族みんなで作ります。もちろん水餃子。たくさん作って、残ったものは冷蔵庫へ入れておく。次の朝、中華鍋に油を引いて、皮がパリッとするまで焼いて食べます。

 日本人は『カレーは二日目の方がおいしい』と言うでしょう。大連でも二日目の残り餃子を焼いたのが好きという人がいますよ」。

 ふるさとの味、餃子について話をしてくれたのは神山玲さん。本名は玲玲。りんりんと読む。新橋駅近くの中華料理店「家園菜」他4店のオーナーママだ。

 家園菜では中国の東北地方と四川料理を出す。客が必ず頼むのは水餃子と焼き餃子だ。餃子の具はバラエティに富んでいる。白菜、ニラ、ねぎ、セロリ、トマト、レモンなど。もちろん主役は豚のひき肉で、白菜などの副菜は選ぶことができる。

 レモンの蒸し餃子はここでしか食べられない。酸っぱいけれど、さわやかな味だ。

 大連生まれのりんりんさんは30年前、日本人の男性と結婚して来日した。しかし、上の子が7歳、下の子が5歳の時に離婚する。

「どうやって食べていけばいいのか」と悩んだ後、彼女は小さな餃子店を開いた。そして、少しずつ、店を広げ、また、店の数を増やしていった。

 以来、17年、男女ふたりの子どもは無事、成人した。上の男の子はミュージシャン志望、下の女の子は法律事務所勤務。りんりんさんの後を継ごうという子はいない。

「それでいいの。うちの店は料理を一生懸命、作りたい人に譲ります。それがお客さんのためだから」

 中国からやってきた通称「新橋のおしん」、りんりんさんは毎日、夜遅くまで、自分がやっている店をぜんぶ回り、味のチェックを欠かさない。 

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野地秩嘉 1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。出版社勤務、美術プロデューサーなど を経て、ノンフィクション作家に。食や美術、海外文化の評論、人物ルポルタージュ など幅広く執筆。近著に、「TOKYOオリンピック物語」「イベリコ豚を買いに」「打 ち合わせの天才」「アジア古寺巡礼」「アジアで働く いまはその時だ」など。


「幸せ食堂」繁盛記

この連載は、味がよく、サービスも悪くなく、値段はリーズナブルで、しかも、できればハイサワーやホッピーを置いている店のグルメガイドだ。ここで紹介される店は、金持ちの社長やグルメ評論家はまずいない。著者は、そういう店を「勤労食堂」「国民酒場」と呼ぶ。そこでは客が微笑しながら食べている。ほほえみながら食べている人と一緒にいることは至福だ。人生の幸せは勤労食堂もしくは国民酒場にある。

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