「企業の利益が増えないので、給与を圧縮せざるをえない」ということが言われる。これは、いわゆる「デフレ・スパイラル論」のなかで重要な意味を持つ命題だ(「デフレのため製品価格を引き上げられず、利益が減少する。そのため給与が減少し、家計所得が増えず、消費が増えない。それが物価下落を加速する」という悪循環が生じると主張されている)。
「2009年冬のボーナスが減った」という報道を聞くと、「利益が減るから給与が減る」という議論を「なるほど」と思ってしまう。
冬のボーナスが減ったのは事実である。「毎月勤労統計調査」によると、09年の冬の賞与は平均38万258円で、前年末に比べて9.3%の減となった。冬の賞与としては比較できる1991年以降最大の減少率で、平均額が40万円を割ったのも初めての事態だった。これは、経済危機によって企業利益が減少した結果であろう。
しかし、冬の賞与は、給与の1ヵ月分程度でしかない(09年冬では、1.04ヵ月分)。したがって、これだけでは給与全体の状況を判断できない。賞与だけでなく、給与が全体として企業利益の影響を受けているのだろうか?
結論をあらかじめ述べれば、日本の給与が長期的に見て下がっていることは事実だが、それは、企業の利益がはかばかしくないことの結果ではない。実際には、利益の動向と給与の動向は、逆方向に動いていることが多いのである。したがって、冒頭に述べた「デフレ・スパイラル論」は、実際のデータによって否定されることになる。
利益が増加したとき給与は減少し、
利益が激減したとき給与は増加した
【図表1】は、企業の経常利益と給与(ここで「給与」は、「毎月勤労統計調査」における「きまって支給する給与」)の関係を示す。
この図において、つぎの2点が明らかに見られる。
第一に、02年から07年にかけての景気上昇期において、企業利潤は顕著に増加した半面で、賃金は上昇せず、むしろ傾向的に下落した。
すなわち、全産業(全規模)の企業の経常利益は、01年第4四半期の7兆2872億円から07年第1四半期の15兆8656億円まで、2.18倍に増加した。しかし、同期間に給与は102.3から99.0へと3.3%下落したのである(数字は、2005年平均を100とする指数)。
そして、経済危機後に企業利益が激減したとき、賃金はそれに合わせて激減したわけではなかった。すなわち、企業の経常利益は、07年第1四半期から09年第1四半期の4兆3570億円まで73%下落したが、同期間に給与は97.1へと1.9%下落しただけであった。