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野口悠紀雄 未曾有の経済危機を読む

「デフレ・スパイラル論」は間違い!
給与が減るのは企業利益減少のためではない

野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
【第66回】 2010年4月10日
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 「企業の利益が増えないので、給与を圧縮せざるをえない」ということが言われる。これは、いわゆる「デフレ・スパイラル論」のなかで重要な意味を持つ命題だ(「デフレのため製品価格を引き上げられず、利益が減少する。そのため給与が減少し、家計所得が増えず、消費が増えない。それが物価下落を加速する」という悪循環が生じると主張されている)。

 「2009年冬のボーナスが減った」という報道を聞くと、「利益が減るから給与が減る」という議論を「なるほど」と思ってしまう。

 冬のボーナスが減ったのは事実である。「毎月勤労統計調査」によると、09年の冬の賞与は平均38万258円で、前年末に比べて9.3%の減となった。冬の賞与としては比較できる1991年以降最大の減少率で、平均額が40万円を割ったのも初めての事態だった。これは、経済危機によって企業利益が減少した結果であろう。

 しかし、冬の賞与は、給与の1ヵ月分程度でしかない(09年冬では、1.04ヵ月分)。したがって、これだけでは給与全体の状況を判断できない。賞与だけでなく、給与が全体として企業利益の影響を受けているのだろうか?

 結論をあらかじめ述べれば、日本の給与が長期的に見て下がっていることは事実だが、それは、企業の利益がはかばかしくないことの結果ではない。実際には、利益の動向と給与の動向は、逆方向に動いていることが多いのである。したがって、冒頭に述べた「デフレ・スパイラル論」は、実際のデータによって否定されることになる。

利益が増加したとき給与は減少し、
利益が激減したとき給与は増加した

 【図表1】は、企業の経常利益と給与(ここで「給与」は、「毎月勤労統計調査」における「きまって支給する給与」)の関係を示す。

 この図において、つぎの2点が明らかに見られる。

 第一に、02年から07年にかけての景気上昇期において、企業利潤は顕著に増加した半面で、賃金は上昇せず、むしろ傾向的に下落した。

 すなわち、全産業(全規模)の企業の経常利益は、01年第4四半期の7兆2872億円から07年第1四半期の15兆8656億円まで、2.18倍に増加した。しかし、同期間に給与は102.3から99.0へと3.3%下落したのである(数字は、2005年平均を100とする指数)。

 そして、経済危機後に企業利益が激減したとき、賃金はそれに合わせて激減したわけではなかった。すなわち、企業の経常利益は、07年第1四半期から09年第1四半期の4兆3570億円まで73%下落したが、同期間に給与は97.1へと1.9%下落しただけであった。

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野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『情報の経済理論』『財政危機の構造』『バブルの経済学』『「超」整理法』『金融緩和で日本は破綻する』『虚構のアベノミクス』『期待バブル崩壊』等、最新刊に『仮想通貨革命』がある。野口悠紀雄ホームページ

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