過熱した不動産価格を抑えるため、上海市では固定資産税の導入を巡って検討が進んでいる。個人住宅向けの課税となれば、中国でも初めての試みとなるのだが、多くの矛盾を内包しているため実施までの道のりは平坦ではない。
中国では86年に「中華人民共和国房産税暫行条例」(※1)が制定されており、固定資産税そのものはすでに存在していた。これには上海市の実施細則(※2)があったのだが、「個人所有の非営業用不動産」については免税の扱いを受けていた。今回、住宅バブルに耐えかねた上海市がメスを入れようとしているのはこの個人所有の部分で、1人当たりの規定面積を超えた場合、評価額の0.8%を毎年徴収することが検討されている。
(※1)中国語で「房産税」とは、固定資産税を指す。
(※2)90年代に古北新区に物件を複数購入した外国人が、ある日突然過去に遡及して固定資産税を課税されたケースが存在しているが、中国人の住宅ブームが始まっていない当時は、課税は外国企業、外国籍の個人が対象だった。
焦点となるのは、2戸以上保有している個人へどう課税するかだ。たとえば、仮に1人当たりの規定面積が60m2(※3)となった場合、家族3人で控除できる面積は180m2となり、課税はこれを超えた面積が対象となる。100m2の住宅を3戸保有している場合は、2戸目から課税対象になるという計算だ。
(※3)1人当たりの規定面積は現在(2010年6月1日時点)未定。
5月31日、国務院は固定資産税についてその改革を段階的に進めると発表した。上海市などの一級都市での試行を経て、全国に導入される可能性がいよいよ高まってきた。ところが上海市では、水面下の議論は難航し、混乱を呈している。
そのひとつが評価額。これまで細則が存在していたにもかかわらず、ほとんど実施されていない状況にあったのは算定基準の路線価がないことに由来している。このような状況で、対象物件の確定、さらにそれへの評価をどのように実施するというのだろうか。
また、こんな“そもそも論”も持ち上がっている。上海のある法律事務所代表は「先進国の固定資産税は私有財産に課税するもの。中国では土地が私有でないから、そもそも固定資産税とはおかしなものなのですが……」と語る。