ありのままを肯定する聴き方をする

 また、解決しようとしないで話を聴くことで、こちらも温かく穏やかな気持ちで相手に接することができるようになります。カリカリ、イライラしながら話を聴くのとは大違いです。

「わがまま」というジャッジメントを通して話を聴いたあとに「そんなの自分で解決したら」と相手に言うのと、相手の存在そのものを感じる聴き方で、じっくり聴いた後に「どうやら自分でできそうだね」と言うのとでは、相手の受け取め方は、まったく違ってきます。

 この聴き方は、「ありのままの肯定」と言うことができます。

人は否定されるよりも、肯定される方がポジティブな変化を遂げやすいのは、科学的にも証明されています。

 ちなみに、解決しようとするのが「怖れのリーダー」、ありのままを肯定するのが「機能するリーダー」と言えます。

「怖れのリーダー」は、プロセスを待つということに自信がなく、また、相手を信じることにも自信がないので、余計なアドバイスをしてしまうのです。

じっくり聴いたうえで、相手の背中を押す

 肯定がよいと言っても、「君ならできる」と何の根拠もなく言われると、突き放されたような感じがする場合もあるので注意が必要です。

「何でそんなことが言えるの?」「何の根拠もなく、無責任に」と戸惑う人も多いでしょう。

 でも、じっくりと話を聴いた後に「君ならできそうだね」と言われるのであれば、ありのままの自分を肯定された上で「できる」と言われているわけですから、戸惑う、突き放された、ということにはならないのです。

 ありのままを肯定の姿勢で聴くことが重要です。

※本連載は、今回で終了します。

水島広子(みずしま・ひろこ)
精神科医
1968年東京生まれ。慶應義塾大学医学部卒業、同大学院修了(医学博士)。
摂食障害、気分障害、トラウマ関連障害、思春期前後の問題や家族の病理、漢方医学などが専門。
「対人関係療法」の日本における第一人者。
慶應義塾大学医学部精神科勤務を経て、現在、対人関係療法専門クリニック院長、慶應義塾大学医学部非常勤講師(精神神経科)、国際対人関係療法学会理事、アティテューディナル・ヒーリング・ジャパン(AHJ)代表、対人関係療法研究会代表世話人。
2000年~2005年 衆議院議員として児童虐待防止法の抜本的改正をはじめ、数々の法案の修正実現に尽力。精神科専門医、精神科指導医(日本精神神経学会)、精神保健指定医、日本認知療法学会幹事、日本うつ病学会評議員、日本摂食障害学会評議員、日本ストレス学会評議員。心の健康のための講演や執筆も多くこなしている。
主な著書に『女子の人間関係』(サンクチュアリ出版)、『怒りがスーッと消える本』『小さなことに左右されない「本当の自信」を手に入れる9つのステップ』『身近な人の「攻撃」がスーッとなくなる本』『大人のための「困った感情」のトリセツ』(以上、大和出版)、『十代のうちに知っておきたい?折れない心の作り方』(紀伊国屋書店)、『プレッシャーに負けない方法―「できるだけ完璧主義」のすすめ』(さくら舎)など、多数。