最近、対人関係の問題などで心を病む人が増えています。会社は多くの人が集まる場所。そこには、上司や先輩、同僚、部下や取引先など、多くの人間関係が生じます。それらの関係は、いずれもストレス要因になり得ます。職場のストレスをなくし、働きやすい環境をつくるのは、現場を預かるリーダーの仕事のうち。本連載では、『部下をもつ人の職場の人間関係』を上梓した対人関係療法の第一人者で精神科医の水島広子氏が、職場のストレスをなくし、円滑な人間関係をつくるコミュニケーションのコツをアドバイス。第6回は前回に続いて、上手なファシリテーターになるためのポイントを解説します。

「機能するリーダー」は、アドバイスではなく教育をする

(2)アドバイスは避け
教育(専門的助言)をする

Q.先日、部下が仕事のことで相談に来ました。以前に私が担当していたクライアント先のことだったので、懇切丁寧に話をしました。「参考になりました」と言っていたのですが、その後、私がアドバイスしたことを仕事に活かしている節がありません。スルーされたようで、ちょっと腹立たしく思っています。こんなことでイラッとするのは、人間の器が小さいからでしょうか?

 アドバイスをした後に、それが実行されずイラッとするのは、人間としてはむしろ当然の反応だと思います。

 特に、器が小さいということはないでしょう。それは、アドバイスというものが、もともとそういう性質のものだからです。基本的に、アドバイスはおすすめしません。

 なぜなら、アドバイスには「現状ではだめだから、こういうふうにしたら?」という、現状否定のニュアンスが必ず含まれるからです。

 現状否定自体が相手を傷つけますし、アドバイスされた人が往々にして感じるのは、「それができるならとっくにやっているよ」「何も事情を知らないくせに」「そんなことはもうやってみたよ。それでだめだから相談しているのに」というような気持ちが多いでしょう。あまりポジティブな展開にはならないのです。

 熱心におすすめしたのに言う通りにしない、という姿を見てイラッとするとしたら、それは自分がアドバイスをしたという証拠です。

 ちなみに、アドバイス好きは「怖れのリーダー」です。相手には相手の事情がある、という「領域」概念がないからです。

アドバイスとは、ジャッジメントの押しつけ

 だからと言って何も助言しないのでは、進歩も遅れてしまうでしょう。それでは、上司や先輩として、ちょっと物足りない感じがします。

 また、部下本人にとっても、そのときの自分が本当に求める情報が得られれば、とても助かるはずです。

 そうすれば、仕事の効率も高まりますから、リーダーとしても嬉しい結果になります。ですから、何も助言せずに放置しておけばよいのか、と言うとそうではありません。

 おすすめしたいのは、アドバイスではなく教育(専門的助言)です。アドバイスが現状否定に基づいたものであるとすると、ここでいう教育とは、現状を肯定した上で必要な情報を伝える、という意味です。

 ある知識がないために、自責の悪循環に入り込んでしまう人は、決して少なくないからです。

 例えば、うつ病の人に、「自分が怠けていると感じるのは、病気の症状なのですよ。本当は一生懸命頑張っているのです。あなたはむしろ病気の被害者なのです」と伝えてあげることは、その人が引っかかっている悪いサイクルから抜け出すきっかけを与えます。

 これこそが、「機能するリーダー」の仕事です。

自分がしているのがアドバイスなのか、教育なのかを見分ける簡単なコツは、相手がその通りにしないときに、不快を感じるかどうか、です。

 アドバイスは、ジャッジメントの押しつけによるものと言えます。

 ですから、相手がその通りにしないときに、自分(の主観)が否定されたような気持ちになるのです。

 それが、アドバイスが聞き入れられない場合の不快です。もちろん、これは「怖れのリーダー」がたどる道です。