「投資嫌い」の国民として知られる日本人。しかし、「ひとまず貯金」という投資スタイルの背後で、大きな損失が生まれていることにはほとんどの人が気づいていない。キャッシュや預金を重視する「現金至上主義」に隠されているワナとは?
年間500件以上の企業価値評価を手がけるファイナンスのプロ・野口真人氏の新著『あれか、これか――「本当の値打ち」を見抜くファイナンス理論入門』のなかから紹介していこう。
「貯金は損しない」は噴飯物
日本人は世界でもトップクラスの「投資嫌いの国民」として知られている。みなさんの中にも「元本割れが嫌だから、株式投資なんてやらない。ひとまず預金がいちばん」という人がかなりの割合を占めているのではないだろうか。
ここで確実に言えるのは「預金は損をしない」などという考え方は、ファイナンス的な観点から言えば噴飯物だということだ。
預金よりも投資効率のいいお金の遣い方は、いくらでも存在している。僕は何も「株を買え」と言っているわけではない。株のキャピタルゲインや配当金のような目に見える価値だけでなく、目に見えない価値を高める投資も無限に考えられるはずだ。預金というのは、そうしたチャンスをすべて切り捨てている意味で、「最も確実に損をする投資」だと言えるのである。
ある金融機関に勤務する営業マンからこんな話を聞いたことがある。
「昨日、投資信託のセールスで、あるおばあさんの家に行ったんだ。彼女はこれまでずっと独身で、いまちょうど70歳。学校を卒業してから市の役場で勤め上げ、ずっと慎ましい生活を続けてきたので、なんと1億円を超える貯金がある。
これと言って趣味があるわけでもなく、日中はテレビを見てのんびりしているそうだ。年金をもらいながら、ちょっとずつ預金を切り崩して生活しているので、投資信託はいらないと断られたんだけど……」
僕は彼女の人生を否定するつもりはまったくないし、当然ながら投資信託の購入をみなさんに勧めようとも思っていない。ただ、思わず考えてしまったのは、「もしも彼女にファイナンスの知恵があったとすれば、自分の人生をどのように振り返るだろうか」ということだ。
ファイナンスは人生を変える劇薬になり得る。いままさにファイナンス理論を学びつつあるあなたも、どうか心していただきたい。今後の人生の選択が、今後大きく変わってしまうかもしれないからだ。