石原慎太郎氏がかつての政敵・田中角栄元総理(以下、敬称略)について書いた本『天才』がベストセラーになっている。それ以外にも田中角栄本がつぎつぎと出版されている。かつて角栄自身が書いた『日本列島改造論』は絶版だが、アマゾンでは1万円を超える価格で取引されている。
なぜ今、田中角栄がブームなのか?そこには今の日本が抱える“ある闇”が存在しているように感じられる。今回はそのことについて書こうと思う。
なぜ田中角栄は全国民に愛されたか
昭和の時代を生きた人間にとって田中角栄は、善悪を超えた魅力あふれる政治家だ。将来を見据えたアイデア、人を動かす情、官僚を動かす現実性、数にものをいわすことができる巨額のカネ、あらゆる面で空前絶後の政治家だった。
中でも将来を見据えたアイデアは、凡人の発想を超えていた。
最初に衆議院議員に立候補したときの演説で「三国峠をダイナマイトで吹っ飛ばせば越後に雪は降らない」と言ったエピソードは有名だ。「その土を日本海に運べば佐渡と陸続きになる」と、誰も思いつかないような発想で、故郷新潟の問題を解決させるアイデアを提示したことが角栄の政治家としての出発点だった。
『日本列島改造論』では、当時の日本の二大問題である公害と地方の過疎化を一気に解決させるアイデアとして、日本全国を新幹線と高速道路で結び、工場を地方に移転させればいいという構想を示した。
東名阪のベルト地帯に工場が集中しているから、地方の若者が都会に出稼ぎにくる。地方に工場が分散すれば、逆に東京から若者が新潟に出稼ぎに来るようになるというのである。
しかもそれらの工場は主に日本の北半分に誘致しようとぶちあげたところが面白い。雪が降らず農業に適した太平洋ベルト地帯はむしろ農地にして、北海道、東北、上越など寒い場所を工業地帯にすれば、農業も工業も同時に発展させることができ、日本はより豊かになるというのだ。
昭和の当時の国民が不安に感じる大問題について、未来に希望を持たせるアイデアをつぎつぎと提示する。そのことが田中角栄という政治家が全国民に愛された理由だった。