「自分はどう思う?」が子どもの思考力を鍛える

ムーギー 石川さんの著書『最後のダイエット』(マガジンハウス)は、ダイエットという問題に、科学者の視点から大真面目に取り組んでおられるのが、とても面白かったです。

 お話をうかがっていると、石川さんは考えを進めていく際の「つまずく習慣」がユニークですね。たいていの人が素通りしてしまうところであえてつまずくというか。本質的な思考をするためにすごくいい習慣だと思うのですが、それはどこから来ているのでしょうか?

石川 子どものころのことで言うと、父親はぼくからの質問に絶対に答えてくれなかったんですよね。ぼくが「これは何?」「これはどういうこと?」と質問すると、必ず「善樹はどう思う?」と問い返してくる。それに対してぼくはよく怒っていたらしいです。「答えてよ!」って。でも、このときに答えが出ないまま、いろんなことを自分の頭で考えたことが、いまのぼくの思考につながっているんでしょうね。

ムーギー『一流の育て方』で紹介しているアンケートでも、親がいろんなことについて子どもに「なぜだと思う?」と問いかけてあげたことが子どもの思考力を鍛えたという例が多く見られました。やはり答えを教えるのではなく、自分で考えさせるというのは、思考する習慣を身につけるうえで非常に重要なんですね。

「子どもの思考力を鍛え、楽しく勉強させる秘訣」とは?

石川 そうですね。ぼくは、そのおかげで本質を考えるようになったのだと思います。でも、生きづらさは感じますね。先日出会った人が、なにげなく「忙しくて、時間がないんです」と言うので、「時間がないってどういうことだろう」と考え込んでしまいました。それで、「すみません、時間がないってどういう意味でおっしゃっているんですか?」と聞いたら、「え!?」みたいな顔をされました(笑)。

 でも詳しく聞いてみると、その人が「時間がない」と感じているのは、つまり、「仕事よりも大事なことを決めずに毎日過ごしている」ということだとわかりました。「仕事より大事なこと」を決めないから、仕事のルーティンをこなすだけで時間が過ぎて行ってしまって「時間がない」ように感じてしまう。

 でも、逆に考えると、それは「大事なことを毎日決めずにすんでいる」ということでもあるわけです。だから「時間がない」というのは、ある意味では自分にとっていいことかもしれないということもわかりました。

 ということで、立ち止まったおかげで見えてきたことはあってよかったんですけど、そこは立ち止まらなくていいじゃんっていうところでもいちいち立ち止まるから、まわりからすれば、まあ、面倒くさいですよね(笑)。

ムーギー まわりからは「変わった人だね」と言われるかもしれませんが、それはつまり、他にないユニークな強みがあるということでもありますよね。ところで石川さんの研究職という仕事では、「つまずき癖」はどう役に立っているんですか?

石川 最近、つまずいて面白い研究になったのが、名刺です。ふだんなにげなく名刺交換をしているけど、ふと、「名刺交換って何なんだろう?」ってつまずいたんです。たとえば、名刺交換をするとき、名刺以外に何を交換していることになるんだろうとかって考えて、これは「アイデアの交換」になっているなということに気づいたんです。今日も、ムーギーさんとぼくとでアイデアの交換をしていますよね。

 ということは、名刺交換の履歴がわかれば、アイデアがどのように流れていくのかがわかるのではないかと思いました。では、名刺交換の履歴がわかるデータがないかなと思ったら、あったんですよ! クラウド名刺管理サービスをやっているSansanという会社があるんですが、日本の名刺流通の10分の1くらいのデータを持っていたんです。すぐに社長さんに連絡して、研究させてほしいとお願いしました。

 すると、いろいろ面白いことがわかってきました。たとえば、日本の平均的なビジネスパーソンは1ヵ月間に10人と名刺交換をするんですが、「そもそもひと月に何人と名刺交換すると適切といえるんだろうか?」ということがわかってきました。

 こんなふうに、日常の中でふと気になったこと、まわりの人のなにげない一言につまずいて、いろんな研究がしたくなるんです。

(構成:小川晶子 写真:柳原美咲)

*後編は、5月23日公開予定です