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加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

あの文化大革命から50年、習近平はどこへ向かうのか?

加藤嘉一
【第78回】 2016年6月7日
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『人民日報』はなぜ文化大革命の
評論記事を掲載したのか

5月中旬、『人民日報』が文化大革命に関する記事を掲載した。文革発動50周年を機に、二度とあのような事態を引き起こすまいという習近平の意思が表れたものに見えるが、当の中国社会では「第二の文革」の到来が不安視されている

 5月17日、党機関紙『人民日報』が一本の評論記事を掲載した。

 “歴史を以て鏡とするのはより良い前進のためである”

 記事のタイトルだ。作者は任平。「この人物は実際には存在しない。『人民日報』が、共産党指導部の立場と意思を代弁するという観点からつくり出した虚構の人物である」(中央宣伝部幹部)。作者が誰であるかは重要ではない。肝心なのは、この記事が、『人民日報』という党のマウスピースに掲載されたという事実と、同紙に掲載される記事のなかでも最も直接的に党指導部の立場と意思を体現しているという真実であろう。

 そんな記事のテーマは文化大革命である。1966年の発動から約10年間続いた。プロレタリア文化大革命とも呼ばれる。「封建的文化、資本主義文化を批判し、社会主義文化を創生する」という政治スローガンの下に社会全体で展開されたが、その実体は毛沢東・共産党主席の政治目的に立脚したに共産党内部の権力闘争だったとされる。この10年間で中国の経済は停滞し、政治は混乱し、社会は衰退した。

 1981年6月、中国共産党第11期中央委員会第6回全体会議で採択された『建国以来の党の若干の歴史問題についての決議』(以下、『決議』)において、文化大革命とは「毛沢東が誤って発動し、反革命集団に利用され、党、国家や各族人民に重大な災難をもたらした内乱である」という公式な定義がなされている。

 1978年12月に開催され、党の仕事における重点を階級闘争から経済建設に移行させた歴史的な会議である中国共産党第11期中央委員会第3回全体会議(第十一届三中全会)において、文化大革命時の死者は40万、被害者は1億人という推計が示されている(筆者注:文革期における死者の数を巡っては様々な推計が存在し、海外では数千万以上という見方もある)。

 私の周りにも、大学時代にキャンパス内外でお世話になった先生を中心に、知識人・知識階級という立場も相まって、文革時代に農村や工場で肉体労働に従事した後、文革が終了し、大学入学試験(通称“高考”)が復活した後、大学に進学したり、入り直したりしたという人生を送った先輩方が多々いる。個人的な感想になってしまうが、文化大革命のような政治運動を実経験した世代とそうでない世代とでは、人生に対する理解の深みや執着心の強さが相当異なると感じさせられる。

 現在の国家指導者・習近平総書記と李克強首相は、それぞれ1953年生まれと1955年生まれであるが、前者は13歳から23歳、後者は11歳から21歳という、人間の発育や成長、および考え方や価値観の形成にあたって核心的にクリティカルな時期に文化大革命を経験しているというバッググラウンドが、彼らの執政プロセスに与える影響を軽視してはならないと私は考えている。

 ちなみに、習近平・李克強の後継者候補とされる胡春華・現広東省書記と孫政才・現重慶市書記(共に政治局委員)は共に1963年生まれであり、文革期は3歳から13歳であった。当然、その政治観や共産党政治に対する理解や心境は1つ上の世代とは異なるものになるであろう。 

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加藤嘉一 

1984年生まれ。静岡県函南町出身。山梨学院大学附属高等学校卒業後、2003年、北京大学へ留学。同大学国際関係学院大学院修士課程修了。北京大学研究員、復旦大学新聞学院講座学者、慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)を経て、2012年8月に渡米。ハーバード大学フェロー(2012~2014年)、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院客員研究員(2014〜2015年)を務めたのち、現在は北京を拠点に研究・発信を続ける。米『ニューヨーク・タイムズ』中国語版コラムニスト。日本語での単著に、『中国民主化研究』『われ日本海の橋とならん』(以上、ダイヤモンド社)、『たった独りの外交録』(晶文社)、『脱・中国論』(日経BP社)などがある。

 


加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

21世紀最大の“謎”ともいえる中国の台頭。そして、そこに内包される民主化とは――。本連載では、私たちが陥りがちな中国の民主化に対して抱く“希望的観測”や“制度的優越感”を可能な限り排除し、「そもそも中国が民主化するとはどういうことなのか?」という根本的難題、或いは定義の部分に向き合うために、不可欠だと思われるパズルのピースを提示していく。また、中国・中国人が“いま”から“これから”へと自らを運営していくうえで向き合わざるを得ないであろうリスク、克服しなければならないであろう課題、乗り越えなければならないであろう歴史観などを検証していく。さらに、最近本格的に発足した習近平・李克強政権の行方や、中国共産党の在り方そのものにも光を当てていく。なお、本連載は中国が民主化することを前提に進められるものでもなければ、民主化へ向けたロードマップを具体的に提示するものではない。

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