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ブラジャーで天下を取った男 ワコール創業者・塚本幸一

九死に一生を得た初陣──身代わりになった彼女

北 康利 [作家]
【第9回】 2016年6月8日
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雪の日のお百度参り

 残された家族は気が気ではない。

 母親の信は、幸一が戦地に赴いてから、毎晩、近くの御池通りにある御所八幡宮に参り、

 (自分の足や手は片方なくなってもよいから、どうぞ無事で帰って来てほしい)

 そう祈って手を合わせた。

 そのことは、後に思いもよらぬ形で実現してしまうことになるのだが……。

 出征兵士の無事を願うのに霊験あらたかだと聞き、西大路四条の春日神社にお百度を踏みに行ったりもした。不思議なもので、雪の日でも少しも寒く感じなかったという。母というものの強さであろう。

 一方幸一は、

 「初年兵と日本刀は、たたけばたたくほど鍛えられる」

 という軍隊でよく言われた言葉通り、過酷な日々を過ごしていた。殴られてばかりだった。訓練中に殴られたのがもとで死んだ初年兵もいた。

 それまでの彼はあばらがすけてひょろっとした身体をしていたが、それでは軽んじられると考え、必死になって体重を増やそうとした。

 幸いにも、最初のうちは食べものに困らなかった。むしろ内地より充実していたと言っていい。まずいものだろうがお構いなしに口に入れた。飲めなかった酒も飲めるようになり、入隊時には50キロほどだった体重が半年後には64キロになった。

 〈検査では目標の六十キロを突破して、堂々たる体になってきました〉

 と、たのもしい手紙を送っている。

 別ルートでもそのことは伝わってきた。

 昭和16年(1941年)3月、信は京都新聞から、中京区出身の兵隊6名を写した写真をもらい、まるまると太っている幸一の姿を見てほっとしている。

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北 康利 [作家]

きた・やすとし/昭和35年12月24日愛知県名古屋市生まれ、東京大学法学部卒業後、富士銀行入行。資産証券化の専門家として富士証券投資戦略部長、みずほ証券財務開発部長等を歴任。平成20年6月末でみずほ証券退職。本格的に作家活動に入る。“100年経営の会”顧問。松下政経塾講師。著書に『白洲次郎 占領を背負った男』(第14回山本七平賞)、『福沢諭吉 国を支えて国を頼らず』、『吉田茂ポピュリズムに背を向けて』(以上、講談社)、『陰徳を積む 銀行王・安田善次郎伝』(新潮社)、『西郷隆盛命もいらず、名もいらず』(WAC)、『松下幸之助 経営の神様とよばれた男』(PHP研究所)などがある。最新刊は『佐治敬三と開高健最強のふたり』(講談社)。


ブラジャーで天下を取った男 ワコール創業者・塚本幸一

ブラジャー。この華やかな商品に一生を捧げた男がいた。戦後京都を代表するベンチャー企業「ワコール」を創業した塚本幸一である。インパール作戦の生き残りという壮絶な戦争体験を持つ彼は、いかにして女性用下着に出会い、その未開市場を開拓していったのか。ベンチャースピリット溢れるその豪快華麗な生涯を、いま最も注目される評伝作家・北康利が描きだす!

「ブラジャーで天下を取った男 ワコール創業者・塚本幸一」

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