結婚式での悲劇は、なぜ起こったのか
フラッシュモブのせいで結婚式が最悪の思い出になった、離婚したい――。昨年、女性質問者からのそんな投稿がヤフー知恵袋に寄せられ、最近「ジューンブライド」シーズンのためか再び話題になっている。
フラッシュモブとは、ネットの掲示板などで場所を指定し、そこに集まった群衆が一斉に即興のパフォーマンスをする行為。筆者が調べた限り、「フラッシュモブ」という言葉を日本で最初に紹介した雑誌は、2003年12月号の「日経トレンディ」。「2004年のヒット予測」特集のなかで、流行の兆しが伝えられている。その後、街中でのパフォーマンスに限らず、結婚式や送迎会など、お祝い事の席で行われるサプライズ演出としても人気を集めるようになった。
なぜ彼女は、結婚式でのフラッシュモブで離婚を考えるまでに至ったのか。投稿によると、彼女は大のサプライズ嫌い。特にフラッシュモブは苦手であり、夫やプランナーの前でそのことをはっきり明言していたという。
にもかかわらず、これがうまく伝わっていなかった。おそらく夫としては、お笑いにおける「フリ」だと思ったのだろう。「絶対やめて」を「絶対やって」に、脳内で変換してしまったのだ。しかし、残念なことに彼女は「ダチョウ倶楽部」の上島竜兵ではなかった。夫は本気で嫌がる花嫁を、熱湯の中にぶち込んでしまったのである。しかも晴れの舞台で。そりゃ怒るわ……。
悲劇は、披露宴最後の記念撮影で起こった。カメラマンがシャッターを切ろうとした瞬間、大音量で洋楽が流れ始めたのだ。カメラマン、シェフ、スタッフ、友人たちが突然ダンスを踊り始める。そして、最後に夫が華麗にポーズを決め、彼女に花束を差し出したという。
悲しみの涙を流す彼女。花束を受け取ることもできず、その場で崩れ落ち、控え室へと退散していった。ショックを受けた彼女は二次会を欠席したというが、夫は「大成功したけど嫁はびっくりしすぎて倒れた」と思っていたらしい。そして、彼女は離婚を決意したという。
なぜ、このような悲劇が起こったのか。
その背景には、「サプライズ」を巡る全体主義的な同調圧力が世間に充満し、それに違和感を覚える少数派の声が黙殺されてしまっているという現状がある。
ホテルの窓の光で「L・O・V・E」の文字は524万円
前提として押さえておいてほしいのは、「サプライズは良いこと」という共通認識が世間にあるということである。
ネットマーケティングが2015年3月に実施した調査によると、「恋人からサプライズされると嬉しい」と思っている男性は94%、女性は96%にのぼっている。小泉内閣で行われた「サプライズ人事」も大衆にとっては概ね「好ましいこと」だったはずだ。予定調和を崩す意表をついた演出は刺激的で、胸ときめくもの。世間の大多数が、そう考えているのである。