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山田英夫のビジネスモデル・ラボ

ソニー損保の自動車保険に優良ドライバーが年々溜まっていく仕組み(上)

山田英夫 [早稲田大学ビジネススクール教授]
【第2回】 2016年6月20日
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ソニー損保の自動車保険、
その知られざるビジネスモデル

後発企業の強みは、大手企業がやれないことをやれること。これまでの自動車保険にユニークな視点を導入し、優良顧客を囲い込みつつあるソニー損保の強みとは?

 「後発企業は、大手企業がやれないことを行う」のが競争戦略の定石である。ドライバーの年齢と等級で保険料が決まっていた自動車保険に、「運転の優しさ」という変数を入れて、優良顧客を囲い込みつつあるソニー損害保険株式会社(以下、ソニー損保)の知られざるビジネスモデルを探ってみよう。

 ソニーの金融関連企業には、生保、損保、銀行などがある。いずれも過去の業界の慣例に囚われることなく、顧客にとって合理的で公平なビジネスを行うことを目標としている。そのうちの1つ、ソニー損保は1999年に営業を開始した。2004年にはソニーフィナンシャルホールディングス株式会社が設立され、その傘下に入った。

 ソニー損保は損保業界では後発かつ知名度もなかったことから、他社と差別化する必要があった。ネットや電話によるダイレクト販売の特長を生かした上で、商品にも差別化が必要であった。その第1弾として1999年に発売したのが、「保険料は走る分だけ」の自動車保険であった。

 この保険は、「毎日運転する人と、たまに運転する人の保険料が同じなのは不公平である」というユーザーの声から生まれたものである。ソニー損保の保険は、走行距離が長くなればなるほど事故に遭う確率が高くなるため保険料は高く設定され、逆に走行距離が短い人は安く設定される。この保険で得をするのは走行距離の短い人であり、その層をターゲットとして開発された。

 保険会社にとっては、個々人の走行距離にかかわらず一律に保険料を集める方が営業効率が良いため、大手損保は簡単にはこのやり方に追随してこなかった。業界トップの東京海上日動はしばらく静観を続けたが、子会社のイーデザイン損保で2013年に「保険料は走った分だけ」の保険を発売した。

 現在、走行距離に応じて保険料が決まる保険は数社から発売されているが、多くの会社が「過去1年間の走行距離」に基いて保険料が決まる「走った分だけ」の保険である。それに対してソニー損保は、予想年間走行距離に応じて保険料を算出する「走る分だけ」の保険である。ひらがな2文字か1文字の違いであるが、ここにもソニー損保のこだわりが見られる。

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山田英夫 [早稲田大学ビジネススクール教授]

慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)後、三菱総合研究所にて新事業開発のコンサルティングに従事。1989年早大に移籍。学術博士(早大)。専門は競争戦略、ビジネスモデル。アステラス製薬、NEC、ふくおかフィナンシャルグループ、サントリーホールディングスの社外監査役を歴任。主著に『経営戦略 第3版』(共著、有斐閣、2016)、『競争しない競争戦略』(日本経済新聞出版社、2015)、『異業種に学ぶビジネスモデル』(日経ビジネス人文庫、2014)、『逆転の競争戦略:第4版』(生産性出版、2014)、『ビジネスマンの基礎知識としてのMBA入門』(共著、日経BP社、2012)などがある。


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企業を取り巻くビジネス環境が激変するなか、これまで自社の主流となってきたビジネスモデルを、根本から見直そうと考える経営者は増えている。しかし、単なる新製品・新事業開発に比べて、ビジネスモデルの再構築は、極めて難しいのが現実である。一方で、業界になかったビジネスモデルを構築し、着実に利益を稼ぎ、堅実な成長を遂げている企業も少なくない。なかには、表面的には競合他社と変わらないようなビジネスモデルを持っている企業もある。この連載では、様々な業界でビジネスモデルを巧みに構築している企業にスポットをあて、顧客や競合から見えている部分だけでなく、見えない部分にも目を配り、ビジネスモデルの「真の強み」を考察する。「どこに注意してビジネスモデルを構築したら良いかわからない」と悩む経営者諸氏には、ぜひ参考にしてほしい。

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