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加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

南シナ海“中国敗訴”で共産党統治のジレンマが浮き彫りに

加藤嘉一
【第82回】 2016年8月2日
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南シナ海問題をめぐる仲裁判決
官民一体で"内宣"する中国

判決結果に対して、中国は官民一体でネガティブキャンペーンを張っています。その理由はなんでしょう

 「南シナ海問題をめぐる仲裁判決が下されて以来、中国はまさに統一戦線を展開するかのごとく、官民一体でネガティブキャンペーンを張っていますね。正直、ここまで猛烈になるとは予想していませんでした」

 7月下旬、私は北京の天安門広場からそう遠くない一角で、国営新華社通信で国際報道を担当する旧知の記者と向き合っていた。

 「これは"内宣"です。主権や国益に関わる南シナ海問題ですから、国内世論が乱れることを上は恐れているということです」

 "内宣"とは、「国内向けの宣伝工作(筆者注:いわゆる"プロパガンダ"と同義語に捉えていいであろう)」のことを指す。それに対して、"外宣"が「国外向けの宣伝工作」を指し、中国国内では往々にして両者が対比的に語られる。

 私は続けて聞いた。

 「党や政府機関はともかく、研究者たちも全く同じトーンで中国の立場が完全に正しいと主張し、異なる見方や視角は全く見られません」

 先方は苦笑いしながら答える。

 「一切の異見は許されません。それだけでなく、党の立場や主張を宣伝するように指名された研究者は、その任務を全うしなければなりません」

 7月12日、南シナ海の領有権問題などを巡ってフィリピンがオランダにあるハーグ常設仲裁裁判所に提訴していた判決が世に出された。当時、私は日本にいたが、日本のメディアはその動向を大々的に報じていた。

 従って、事の成り行きや判決の詳細に関しては割愛するが、簡単にレビューしておくと、周知の通り、判決はフィリピン側の主張を全面的に受け入れるものであった。中国が南シナ海の大半に歴史的権利を持つとの主張は無効であり、中国が支配する岩礁も海洋権益の基点にならないとした。特に焦点になったのが、中国が独自に主張する境界線"九段線"であるが、これについても国際法上の根拠がないとする判決を出し、中国が同海域で進める人工島造成などの正統性が疑問視されることになった。

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加藤嘉一 

1984年生まれ。静岡県函南町出身。山梨学院大学附属高等学校卒業後、2003年、北京大学へ留学。同大学国際関係学院大学院修士課程修了。北京大学研究員、復旦大学新聞学院講座学者、慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)を経て、2012年8月に渡米。ハーバード大学フェロー(2012~2014年)、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院客員研究員(2014〜2015年)を務めたのち、現在は北京を拠点に研究・発信を続ける。米『ニューヨーク・タイムズ』中国語版コラムニスト。日本語での単著に、『中国民主化研究』『われ日本海の橋とならん』(以上、ダイヤモンド社)、『たった独りの外交録』(晶文社)、『脱・中国論』(日経BP社)などがある。

 


加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ

21世紀最大の“謎”ともいえる中国の台頭。そして、そこに内包される民主化とは――。本連載では、私たちが陥りがちな中国の民主化に対して抱く“希望的観測”や“制度的優越感”を可能な限り排除し、「そもそも中国が民主化するとはどういうことなのか?」という根本的難題、或いは定義の部分に向き合うために、不可欠だと思われるパズルのピースを提示していく。また、中国・中国人が“いま”から“これから”へと自らを運営していくうえで向き合わざるを得ないであろうリスク、克服しなければならないであろう課題、乗り越えなければならないであろう歴史観などを検証していく。さらに、最近本格的に発足した習近平・李克強政権の行方や、中国共産党の在り方そのものにも光を当てていく。なお、本連載は中国が民主化することを前提に進められるものでもなければ、民主化へ向けたロードマップを具体的に提示するものではない。

「加藤嘉一「中国民主化研究」揺れる巨人は何処へ」

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