監査法人の最大手、新日本有限責任監査法人が危機に瀕している。業界が一丸となって会計士を現在の約2万人から2018年に約5万人にまで増やすことを目指すなか、今年の採用を大幅に減らす見込みなのだ。背景には、過去の過剰採用や監査企業の契約打ち切りといったお粗末な組織運営がある。その実態を追った。
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今年7月末、公認会計士を擁する監査法人業界で一つの観測が駆け巡り、衝撃が走った。「新日本監査法人が、新人会計士の採用をストップするらしい」──。
新日本といえば、監査法人トーマツ、あずさ監査法人、そしてあらた監査法人を含めた4大監査法人の一つ。そのなかでも2669人の会計士を抱える最大手の新日本が公認会計士試験合格者の採用を取りやめるというのだから、業界関係者が驚くのも無理はない。
監査法人業界では、昨今の内部統制や四半期開示制度の導入など業務の拡大傾向に伴い、資格者の増員が急務となっていた。日本の公認会計士数は2万0996人と、米国の34万人と比べても圧倒的に少ないのが現状だ。
そのため目下、業界団体の公認会計士協会は金融庁と足並みを揃え、2018年までに約5万人にまで会計士を増やすことを目指している最中だったのだ。
その成否のカギを握っていたのが、4大監査法人の採用数だ。公認会計士になるには試験に合格するだけでなく、2年間の実務経験を経る必要がある。その受け皿の中心的役割を果たしてきたのが監査法人、なかでも例年、全体の約8割の採用を支えている4大監査法人というわけだ。
そうした矢先、最大手として採用拡大の旗振り役だったはずの新日本が、本来の役割を果たすどころか採用をゼロに絞るとなれば、業界内で反発を招くことは明らかだった。
「本音をいえば新人なんて採用したくないのはウチも同じ。新日本の姿勢は無責任に過ぎる」(別の大手監査法人関係者)
結局、新日本は今年、なんとか100人前後の採用を行うことでこうした反発を抑えたい意向だが、それでもピーク時に比べて約9割減、前年比でも約6割減というありさま。トーマツが200人程度は採用する予定であることを鑑みても、明らかに少ない。
過剰採用のツケが回り監査報酬をダンピング
新日本が業界内で批判を浴びたのは、なにもこれが初めてのことではない。08年のリーマンショック以降、その行動が最も疑問視されたのが、監査報酬のダンピングである。
東京都内、東京証券取引所1部上場企業の担当者は昨年5月、新日本の担当会計士のひと言に耳を疑った。監査報酬を5000万円から2700万円と約半額にまで引き下げるというのである。