ダイヤモンド社刊
2310円(税込)

「人口構造の変化と同じように重要でありながら、経営戦略上ほとんど関心を払われていないものとして、支出配分の変化がある。21世紀の初めの数十年は、この支出配分が重要な意味をもつ」(『明日を支配するもの』)

 かつては、生活水準の高さを示す数字として、エンゲル係数なるものが使われた。消費支出に占める飲食費の割合のことだった。

 ドラッカーは、経営環境の変化を知るには、このエンゲル係数に相当するものを見つけよと言う。

 多くの企業が売り上げの増減を気にする。あるいは市場シェアに気をつかう。こうして、あらゆる企業が自らの成長の度合いを数字で把握しようとする。

 それなのに、ほとんどの企業が、本当に重要な数字については知らない。すなわち、顧客の全支出のうちで、自社が提供するカテゴリーの製品とサービスに向けられているぶんの割合である。

 ドラッカーは、支出配分の変化こそ、企業にとってあらゆる情報の基本だという。しかも、必要な情報のなかでは、むしろ手に入れやすいものである。支出配分は、一度落ち着けば、そのまま続く。それはトレンドである。

 たとえば、携帯電話に取られてしまったぶんを、出版業その他既存の産業が取り返すのは容易なことではない。ところが、この変化を重視する企業やエコノミストがいない。そもそも、そのような問題があることを知らない。

「支出配分の変化こそ、企業にとってあらゆる情報の基本である」(『明日を支配するもの』)