社会的な「成功レール」の崩壊、どんどん不確実になる未来、SNSにあふれる他人の「キラキラ」…。そんな中で、自分の「やりたいこと」がわからず戸惑う人が、世代を問わず増えています。本連載は、『「やりたいこと」はなくてもいい。』(ダイヤモンド社刊)の著者・しずかみちこさんが、やりたいことを無理に探さなくても、日々が充実し、迷いがなくなり、自分らしい「道」が自然に見えてくる方法を、本書から編集・抜粋して紹介します。

夢のかなえ方のお手本・大谷選手と藤井棋士
「やりたいことを見つけましょう」「夢を持ちましょう」「目標を立てなさい」……。
親や教師、上司、自己啓発本、SNSなどあちこちから聞こえてくる、これらの言葉。なぜ、私たちはこれほどまでに「夢」や「目標」にこだわるのでしょうか。
その理由の1つに、人間が持つ「物語」を求める性質があると私は考えています。
ここ数年、日本中を沸かせている2人の若者がいます。大谷翔平選手と藤井聡太棋士です。
大谷選手は、二刀流という前例のない挑戦で、メジャーリーグを席巻しています。子どもの頃から夢を持ち、小学校の卒業文集に「ぼくの夢は、プロ野球選手」「WBCに選ばれて世界で、活やくしたい」と書いたそうです。
その夢を追いかけ続けて米国に渡り、FA権を取得して超高額の契約で移籍、その移籍先でワールドシリーズ制覇! “完璧”な物語になっています。
藤井棋士も幼稚園のときに「おおきくなったらしょうぎのめいじんになりたいです」と書いたそうですが、14歳2か月で史上最年少のプロ棋士となり、その後も様々な記録を更新。21歳2か月で史上初の八冠を達成。実力、人気ともにトップクラスの棋士となりました。
2人の活躍は本当に素晴らしく、多くの人に感動と勇気を与えています。メディアは彼らを「幼い頃から夢を持ち、目標に向けて挑戦し続けたヒーロー」として褒めたたえ、大谷選手が使った目標達成シートや藤井棋士が幼少期に遊んだおもちゃなどを探し出し、彼らの生き方をお手本として紹介しています。
確かに、2人の姿は輝かしくて、まるで物語のヒーローです。「夢を掲げ、それに向かって頑張り、実現する」というストーリーは、私たちの心を強く惹きつけます。
『ONE PIECE』『NARUTO』『ポケモン』等の原体験
こういったストーリーは漫画や映画、ドラマでも定番です。
海賊王を目指す『ONE PIECE』のルフィ、火影になりたいと願った『NARUTO』のうずまきナルト、ポケモンマスターを目指す『ポケットモンスター』のサトシなど、人気作品の中にもいくつも見つかります。
これらを見るうちに自然と、夢を追いかける主人公の生き方に憧れ、理想とする思いが、小さいうちから育まれていきます。
ある日、自分がヒーロー・ヒロインではないことに気づく
実際、「格好いい!」「自分もああいう風になりたい!」という思いは、私たちの行動の原動力となります。
私自身、1970年代に放送されていたスポ魂アニメ『アタックNo.1』に憧れて小学校でバレーボール部に入りました。辛い練習も「アニメのあのシーンみたい!」と思うことで乗り切れましたし、物語に憧れる気持ちが頑張る力を生みました。
同じように『キャプテン翼』に憧れてサッカーを始めた人、『SLAM DUNK』に憧れてバスケ部に入った人もいるかもしれませんね。
でも、ある日、気づくのです。
自分が鮎原こずえ(『アタックNo.1』の主人公)ではなく、ただの運動音痴の小学生であり、こずえのような“消えるアタック”はどんなに頑張っても打てない現実に。
そうなのです、誰もが幼い頃の夢をかなえられるわけではないのです。
幼い頃に見る夢は、経験の少なさからくる乏しい知識の中から選ばれたものなので、その中に「自分の可能性が発揮できる分野」が入っている確率が少ないのも当然です。
しかし、物語の主人公に感じた「格好いい!」「自分もああなりたい」という原体験のインパクトは強く、「早いところ夢を見つけて、主人公のように生きなければ!」と、自分が縛られてしまうのです。
*本記事は、しずかみちこ著『「やりたいこと」はなくてもいい。 目標がなくても人生に迷わなくなる4つのステップ』(ダイヤモンド社刊)から抜粋・編集したものです。