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7つの知性を磨く田坂塾

なぜ、古典を読んでも、人間力が身につかないのか?

田坂広志 [田坂塾・塾長、多摩大学大学院教授]
【第6回】 2016年8月10日
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拙著、『知性を磨く』(光文社新書)では、21世紀には、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という7つのレベルの知性を垂直統合した人材が、「21世紀の変革リーダー」として活躍することを述べた。
この第6回の講義では、「人間力」に焦点を当て、拙著、『人間を磨く - 人間関係が好転する「こころの技法」』(光文社新書)において述べたテーマを取り上げよう。

我々が、優れた「古典」を読んでも、なかなか「人間力」を身につけることができない真の理由は、「古典」を読むとき、その「読み方」を誤解しているからである

「人間を磨く」とは、「非の無い人間」をめざすことではない

 今回のテーマは、

なぜ、古典を読んでも、人間力が身につかないのか?

 このテーマについて語ろう。

 世の中には優れた古典と呼ぶべきものが数多くあり、また、そうした古典を読むことを薦める良書もまた、数多くあるが、その中で、しばしば用いられる言葉が、「人間を磨く」という言葉である。

 それは、誰もが惹かれる言葉であり、人生論の古典などを読むと、「生涯を賭けて人間を磨き、人格の完成をめざす」といった言葉が心に響き、そうした思いを心の片隅に抱きながら、道を歩んできた読者もいるだろう。

 この「人間を磨く」という言葉。

 それは、人生の経験を通じて、自分という人間を磨いていくこと。あたかも、玉を磨いていくと、「曇り」や「汚れ」や「傷」が消えていくように、自分の人格を磨いていくと、「非」や「欠点」や「未熟さ」が消えていく。その結果、磨かれた玉が光り輝き出すように、一人の人間として、自然に光り輝き出す。そして、その光や輝きが、周りの人を惹きつけ、多くの人々が周りに集まってくれる。

 「人間を磨く」という言葉には、そうした響きがある。

 筆者もまた、若き日に、この「人間を磨く」という言葉に惹かれ、心の片隅にこの言葉を抱きながら、65年の歳月を生きてきた。

 振り返れば、一人の未熟な人間ながら、ささやかな人間成長の道を歩んで来ることはできたかと思う。そして、素晴らしい人々との縁も得ることができ、共に歩む人生が与えられた。

 しかし、自分自身を虚心に見つめれば、いまだ「人格の完成」には、ほど遠く、人間として多くの未熟さを抱えて生きていることを感じる。

 世の中には、「知識とは、風船の如きもの」という比喩がある。

 風船が膨らめば膨らむほど、外界と接する表面積が増えていくように、知識が増えれば増えるほど、未知と接する表面積が増えていく、分からないことが増えていく、という喩えである。

 されば、「人間成長もまた、風船のごときもの」なのかもしれない。

人間として成長すればするほど、人間としてめざすべき高みが見えてきて、自分の未熟さを痛切に感じるようになる。それも、一つの真実なのであろう。

 それにしても、若き日に惹かれた「人間を磨き、人格の完成をめざす」という言葉を思い起こすとき、いまだ、その「人格の完成」には、ほど遠く、人間としての未熟さを抱えて生きている自分の姿が、そこに、ある。

 そのことを嘆く思いになるとき、ふと、一つの言葉が心に浮かび、救われる。

 浄土真宗の開祖、親鸞の言葉である。

 「心は蛇蝎のごとくなり」

 親鸞ほどの宗教的人物でも、歳を重ねてなお、「人間の心は、へび、さそりのごときものだ」と述べている。どれほど人間としての修行を積んで歩んでも、心の奥に未熟さを抱えて生きるのが人間の姿だと語っている。

 もし、そうであるならば、心に一つの疑問が浮かぶ。

 はたして「人間を磨く」とは、「非の無い人間」や「欠点の無い人間」をめざすことなのだろうか?

 いや、そうではない。実は、人間は、自分の中に「非」や「欠点」や「未熟さ」を抱えたまま、周りの人々と良き人間関係を築いていくことができるのではないか? その関係を通じて、良き人生を歩めるのではないか?

 それが、65年の歳月を生きてきた一人の人間の、率直な思いでもある。

 そうであるならば、我々が古典を読むとき、「非や欠点の無い人間をめざして生きる」という視点ではなく、「非も欠点もある未熟な自分を抱えて生きる」という視点から、そうした古典を読むべきではないだろうか。

 しかし、こう述べると、おそらく、多くの読者の心には、一つの疑問が浮かんでくるだろう。それは、次の疑問である。

 「たしかに、世の中では、『人間を磨く』というと、しばしば、『古典を読め』『古典を読んで人間力を身につけよ』と言われるが、なぜ、古典を読んでも、なかなか『人間力』が身につかないのか?」

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田坂広志 [田坂塾・塾長、多摩大学大学院教授]

1951年生まれ。74年、東京大学卒業、81年、同大学院修了。工学博士(原子力工学)。87年、米国シンクタンク・バテル記念研究所客員研究員。同時に、米国パシフィックノースウェスト国立研究所客員研究員。90年、日本総合研究所の設立に参画。戦略取締役を務め、現在、同研究所フェロー。2000年、多摩大学大学院教授に就任。社会起業家論を開講。同年、シンクタンク・ソフィアバンクを設立。代表に就任。2003年、社会起業家フォーラムを設立。代表に就任。2008年、ダボス会議を主催する世界経済フォーラムのグローバル・アジェンダ・カウンシルのメンバーに就任。2010年、4人のノーベル平和賞受賞者が名誉会員を務める世界賢人会議・ブダペストクラブの日本代表に就任。2011年、東日本大震災に伴い、内閣官房参与に就任。原発事故対策、原子力行政改革、エネルギー政策転換に取り組む。2012年、民主主義の進化をめざすデモクラシー2.0イニシアティブの運動を開始。代表発起人を務める。2013年、全国から3000名を超える経営者やリーダーが集まる場、「田坂塾」を開塾。「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という「七つのレベルの知性」を垂直統合した「スーパージェネラリスト」への成長をめざし、塾生とともに研鑽を続けている。著書は、知のパラダイム論、未来予測論、地球環境論、複雑系社会論、情報革命論、知識社会論、民主主義進化論、資本主義進化論、産業政策論、経営戦略論、マネジメント論、リーダーシップ論、戦略思考論、プロフェッショナル進化論、社会起業家論、社会的企業論、仕事論、人生論、詩的エッセイ、詩的寓話など、様々な分野において国内外で80冊余。(所感送付先:tasaka@hiroshitasaka.jp
◇主な著書 『知性を磨く - 「スーパージェネラリスト」の時代』(光文社) 2014
『人は、誰もが「多重人格」 - 誰も語らなかった「才能開花の技法」』(光文社)2015
『人間を磨く - 人間関係が好転する「こころの技法」』(光文社)2016

 


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多くの問題が山積する21世紀、目の前の現実を変革するために、我々は、思想、ビジョン、志、戦略、戦術、技術、人間力という「7つのレベルの知性」を、垂直統合して身につけ、磨いていかなければならない。知性を磨き、使命を知り、悔いのない人生を生きるために、いま、我々は何を為すべきか。現代の知の巨人が語る。

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