NHKのスクープに端を発した天皇陛下の「生前退位」問題。当初、宮内庁幹部が全面否定し、その後に陛下ご自身が「お気持ち」を表明したというプロセスに、「宮内庁の対応は悪い」という批判も起きた。しかし、これまでの経緯を丁寧にひもとけば、実は宮内庁が仕掛けた、巧妙な情報戦であった可能性が浮かび上がってくる。
NHKのスクープを全否定した宮内庁の
広報対応は「場当たり的」なのか?
天皇陛下が「生前退位」を強く示唆した「お気持ち」を表されたことを巡って、宮内庁の「グダグダな広報対応」に一部から批判が集まっている。
発端は、7月13日のNHKのスクープだ。
ここで初めて、「天皇陛下が、天皇の地位を生前に皇太子さまに譲る意向を宮内庁関係者に伝えられた」という報道がなされたわけだが、その日の午後8時半、宮内庁の山本信一郎次長は以下のように全否定したのだ。
「そうした事実は一切ない。陛下は憲法上のお立場から、皇室典範や皇室の制度に関する発言は差し控えてこられた」
「長官や侍従長を含め、宮内庁全体でそのようなお話はこれまでなかった」
山本次長だけではない。深夜に取材に応じた風岡典之長官も、「制度については国会の判断にゆだねられている。陛下がどうすべきだとおっしゃったことは一度もなく、あり得ない話だ」と全否定した。
宮内庁のツートップが揃ってここまで強気に出れば、国民としては「ああ、そうですか。じゃあNHKがやらかしちゃたのね」と思う。
が、それから3週間もたたぬ8月8日、陛下がビデオで「お気持ち」を表明。その後の記者会見で、風岡長官はしれっと「昨年から陛下はお気持ちを表明することがふさわしいのではないかと考えられていた」と述べたのである。
この一連の流れを素直に受け取れば、陛下の「お気持ち」を宮内庁内部の何者かがリークし、事無かれ主義の宮内庁幹部がそれにフタをしようと目論むも、陛下の強い意向を無視することができず結局、押し切られるように「お気持ち」表明をした――というストーリーが浮かび上がる。
実際、ネットではそのような立場に立った《天皇陛下「お気持ち」表明の裏で宮内庁が機能不全&暴走...丸投げされた首相官邸も困惑》(ビジネスジャーナル 8月9日)などの記事も出回っている。
「宣伝会議」などが出す、企業広報の教科書やマニュアルのようなものでは、こういう場当たり的な広報対応は、事態を悪化し、組織の存続すらも危うくさせる「悪手」とされる。
不正などの問題が内部の人間によってメディアにリークされた後、とにかく臭いものにはフタをしろとばかりに「そんなのガセですよ」と全否定するも、やがて言い逃れできないような事実が明らかとなり、「すいません、実は」と謝罪会見で社長が晒し者になるのは、ダメな危機管理広報の定番とされているのだ。
そのような視点に立てば、今回の宮内庁の広報対応は「悪い見本」という位置付けになるわけだが、個人的にはまったく逆の評価をしている。