ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
ブラジャーで天下を取った男 ワコール創業者・塚本幸一

“にせオッパイ”との出会い

北 康利 [作家]
【第22回】 2016年9月7日
著者・コラム紹介バックナンバー
1
nextpage

女性の洋装化と拡大する下着市場

 春はファッションの季節だ。昭和24年(1949年)春も装身具の販売は順調だった。だが幸一は不安を隠せない。その理由の一つは流行が大きく変化することだった。

 模造真珠だ、ブローチだ、竹細工だ、水晶ネックレスだといろいろと扱ってきたが、安定して売れる商品がなかなか見つからない。

 最初のうちは、それが商売をするうえでの面白味でもあったのだが、会社を大きくする上で、絶えず流行を追うのは危険すぎる。幸一は手探りを続けているうち、やがて一つの方向性を見いだそうとしていた。

 昭和24年5月のある朝、幸一は中村にこう語ったという。

 「俺は将来、繊維を店の主力商品にしたいと思っている。目をつけているのは、ブラジャーとコルセットだ。女性が洋装するときに不可欠の下着で、日本女性の洋装化が進めば、大きな将来性が期待できる」(『ワコール50年史 “こと”』)

 (ブラジャーやコルセットねえ……)

1949年当時のシアーズ・ローバックのカタログ

 幸一の言葉がまだ耳の奥に残っている中村は、進駐軍から物資の払い下げを受けている男から一冊のファッション・カタログを見せてもらった。シカゴに本社を持つ世界一の小売業シアーズ・ローバックのカタログである。驚くほど鮮やかなカラー刷りで、女性下着が数十ページにわたって掲載されている。

 「確かにこの下着の市場というのは大きそうやな」

 中村がカタログのことを話すと、幸一は嬉しそうに破顔した。

 下着と一概に呼ぶが、ファンデーションとランジェリーの2種類がある。ファンデーションは身体のラインを美しく補正する下着のことで、ランジェリーは補正された身体と服の間を結んでいくものだ。すべらすためのスリップ、ペチコート、ショーツ、ガードル、あるいはネグリジェなども含めランジェリーと呼んでいる。

 これをきっかけに女性下着に興味を持った幸一は、ブラジャー・コルセット・アソシエーションという業界団体がアメリカにあることを突き止め、手紙で問い合わせてみた。

 すると、なんと1943年度の売り上げがアメリカ国内だけで1500億から2000億円近くあることがわかった。

 目指していた大企業への道がここにある。

 「俺は婦人物をやる。和江商事の将来はこれだ!」

 中村にそう語り始めた。

1
nextpage
関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR
【デジタル変革の現場】

企業のデジタル変革
最先端レポート

先進企業が取り組むデジタル・トランスフォーメーションと、それを支えるITとは。

経営戦略最新記事» トップページを見る

最新ビジネスニュース

Reuters

注目のトピックスPR

話題の記事

北 康利 [作家]

きた・やすとし/昭和35年12月24日愛知県名古屋市生まれ、東京大学法学部卒業後、富士銀行入行。資産証券化の専門家として富士証券投資戦略部長、みずほ証券財務開発部長等を歴任。平成20年6月末でみずほ証券退職。本格的に作家活動に入る。“100年経営の会”顧問。松下政経塾講師。著書に『白洲次郎 占領を背負った男』(第14回山本七平賞)、『福沢諭吉 国を支えて国を頼らず』、『吉田茂ポピュリズムに背を向けて』(以上、講談社)、『陰徳を積む 銀行王・安田善次郎伝』(新潮社)、『西郷隆盛命もいらず、名もいらず』(WAC)、『松下幸之助 経営の神様とよばれた男』(PHP研究所)などがある。最新刊は『佐治敬三と開高健最強のふたり』(講談社)。


ブラジャーで天下を取った男 ワコール創業者・塚本幸一

ブラジャー。この華やかな商品に一生を捧げた男がいた。戦後京都を代表するベンチャー企業「ワコール」を創業した塚本幸一である。インパール作戦の生き残りという壮絶な戦争体験を持つ彼は、いかにして女性用下着に出会い、その未開市場を開拓していったのか。ベンチャースピリット溢れるその豪快華麗な生涯を、いま最も注目される評伝作家・北康利が描きだす!

「ブラジャーで天下を取った男 ワコール創業者・塚本幸一」

⇒バックナンバー一覧