前回の当コラムでは、TPP交渉参加反対派の最大の拠り所となっている「食料自給率の低下」は「幽霊の正体みたり枯れ尾花」のようなものであることを示した。では、この他にどのような反対理由があるのだろうか。つぶさに検証してみたい(反対派の主張は、主として「TPP交渉参加 是か非か」2011年10月30日 日経新聞朝刊、及び「TPP思惑交錯」2011年11月4日 日経新聞朝刊による)。

TPP交渉参加に対する
主な4つの反対理由を検証する

混合診療や株式会社による病院経営の解禁で、わが国の公的医療保険制度が崩壊する

  これに対しては、政府は以前は「混合診療や医療制度は議論の対象外」と言っていたが、今日(11月8日)の新聞報道によると、議論の対象となる可能性がありそうだ。このように情報を小出しにすることは、政府に対する不信感を増幅させることになる。政府が本気でTPPの交渉に臨みたいのであれば、手持ちの情報はすべて開示して、オープンな議論を行うべきではないか。

 ちなみに筆者は、「国民皆保険」を旨とした現在のわが国の公的医療保険制度については(もちろん無駄を省いた上での話だが)、その根幹をしっかりと守るべきだと考えている(7月26日付当コラムを参照)。TPPに参加するのであれば、この点は譲れないものとして、堂々と主張すればいい。もっとも、混合診療や株式会社による病院経営の解禁がどの程度であれば、わが国の公的医療保険制度の根幹が揺らぐのかについては、数字による丁寧な検証が必要であろう。

外国人の専門家(医師や弁護士)が国内に大量流入

 これに対しては、政府は「免許の相互認証は議論されておらず、大量流入は考えにくい」と述べているが、仮に百歩譲って大量流入があったとして、何が困るのだろうか。わが国市民の英語力のレベルを考えれば、大量流入してくる外国人の専門家はおそらく日本語がペラペラであろう。そうでないと商売ができるはずがない。日本語に堪能な専門家が増えれば、結果として競争が促進され、私たち市民は優秀な専門家による廉価なサービスが受けられるようになる。一体どこに問題があると言うのだろう。

 まさかこの社会は医師や弁護士の数を絞って、全員が競争せずに一生安楽に仕事ができることを理想としているわけでもあるまい。

単純労働者が日本に大量に流入し、国内の雇用が奪われる

 これは政府が「単純労働者の受け入れは議論の対象外」としているので、水かけ論である。