米議会でようやく暫定予算と連邦債務上限引き上げが合意され、市場が懸念していたデフォルトは回避されることとなった。すでにデット・シーリングは政争の具と化しており、今後も同じ状況が繰り返される可能性は高い。今後米国の「決められない政治」が「決められない金融」に飛び火するようなことになれば、それは世界にとって最悪のシナリオになるだろう。米国をはじめ、世界の金融市場に精通する倉都康行・RPテック株式会社 代表取締役が、混迷の背後に垣間見える課題を鋭く斬る。
すんでのところでデフォルト回避
政争の具と化したデット・シーリング
RPテック(リサーチアンドプライシングテクノロジー)株式会社 代表取締役。1955年生まれ。東京大学経済学部卒。東京銀行、バンカーストラストを経て、チェースマンハッタンへ移籍。チェース証券取締役東京代表を経て、2001年4月に独立、現在に至る。著書に『投資銀行バブルの終焉―サブプライム問題のメカニズム』(日経BP社刊)がある。
米議会の上下院は16日、ようやく暫定予算と連邦債務上限引き上げで合意し、市場が懸念していたデフォルトは回避されることになった。
だが今回、米国の政治が目を疑うような迷走を続けたことは、市場だけでなく世界中の人々の米国への見方を変える契機となるかもしれない。そんな不気味な思いを抱きつつ、米国経済が抱える問題点を整理してみたい。
米国の連邦債務上限問題が、世界の市場で最初に意識されたのは2011年であった。その引き上げへの採決が円滑に進まなかったことから、米国債のデフォルトの可能性が囁かれ、議会が迷走した挙句の果てに、S&Pが米国の格付けをAAAからAA+へ引き下げるといった事態にまで進展した。そして今回もフィッチがAAA格付けの見通しをネガティブに変更している。
デット・シーリングとは、文字通り負債の残高に天井を設けるものである。第一次世界大戦中の1917年にこの制度が設けられた際には、負債残高を抑制させることが目的ではなく、それまで個別の債務に対して議会の承認が必要だった硬直的な制度を、「この金額までなら議会承認なしに債券発行を可能にする」という柔軟な財政管理方法に転換させることが、目的とされていた。
したがって、2011年まではこの上限引き上げで議会が紛糾することはなく、市場もこれを材料にすることは全くと言って良いほどなかった。筆者の現役時代にも、デット・シーリングが重要な話題になったという記憶がない。