ともに東京教育大学附属高校(現筑波大学附属高校)の出身であり、アメリカに留学し、マッキンゼーでキャリアを積み、現在は大学で教鞭を執るという多くの共通点を持つ慶應義塾大学特任教授・高橋俊介氏と京都大学教授・河合江理子氏。日本を知り、世界を知る二人から、日本の就職活動やキャリア教育に対する違和感、世界で通用する人材を育てるために必要なことなどが語られる。河合氏と高橋氏による対談は最終回。

わかりやすく教えると学生がバカになる?

河合 若い人たちのキャリア選択を充実させるために、私たち大学の先生は何ができるのでしょうか?

高橋 大学の講義改革を推進しようとしているNPO(非営利組織)があります。そこは大学のヒアリングをやっていて、講義の評価をするときに、たとえば「考えさせる講義」かどうかということを一つ挙げていました。これは、一方的に知識を与えるのではなくて、何らかの形で考えさせことをうまくやっている講義かどうか、という視点です。

 ほかにも、試験では持論を聞くかどうか、という視点もありました。つまり、自分なりの考えをまとめてアウトプットしなければいけない試験かどうかです。たとえば、東大の法学部をそうした基準で見ると、考えさせるような授業の運び方がまったくなく、一方的な講義になっている。でも、試験では「何々ついて述べよ」と持論を問われるんですよ。

河合 そこで考えさせているんですね。

高橋 そう。では、なぜ授業でそういうことをやらないかというと「東大だから」だそうです。やらせなければ自分で考えない奴はそもそも来ていない。なにもやらなくても、とにかく教えるだけ教えたら自分で考える人間が来ているから、大学の講義でそんなことをやる必要はないという考え方です。

河合 それでいいのでしょうか?中学や高校でもかまいませんが、どこかで学ばなければいけないことではありますよね。

高橋 そうそう。でも、たとえば大学の先生の中には、いまのような考えの人は結構いますよ。大学の講義を評価したとき、評価が高い先生には問題がある、と言われることがあります。なぜなら、わかりやすく教えているから。わかりやすく教えるからバカになると言う人もいます。

 わざとわかりにくく教えるから、「どうして?どういう意味なんだろう?」と一所懸命に考えるので、頭が鍛えられる。「なるほど。そうなんだ」とわかりやすく教えると人間はバカになる、と信じている先生も結構います。

河合 それはおもしろいですね。自分の教え方を正当化するために言っていると思えてしまう部分もありますけど(笑)。たとえば、イギリスでは自分で勉強をさせます。学び方を学んでもらうために、大学は教えてくれない。

高橋 そうそう。

河合 本だけ与えて、「自分で勉強してきて」と伝えられます。実際のゼミでは、先生にわからないところを質問して、先生はそれに答えるといった感じです。考える能力は鍛えられますね。

高橋 もともとのエリート教育とは、そういうものだと思います。