僕が「カリスマ経営者」のマネをしない理由

生産者と街、すなわち消費者を直接つなぐことで日本の食をかえていく。そんな想いで「塚田農場」などを展開するエー・ピーカンパニーの米山久・代表取締役社長と、1000人以上のトップリーダーを取材してきた藤沢久美さんによる対談。

最高のリーダーは何もしない』の冒頭で、藤沢さんは「ビジョン型経営で成功するリーダー」として米山さんについて語っている。

米山久さんが掲げるリーダーシップにはどんな特徴があるのか? 藤沢さんはそこから何を読み取ったのか? 全3回にわたってお届けする連載の第2回。

(構成:高橋晴美/撮影:宇佐見利明/聞き手:藤田悠)

前回の対談(第1回)
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「モヤモヤ」こそがリーダー力の源泉である

周囲を巻き込む「鶏モモ1000本ノック」。
そこに物語が生まれる

――藤沢久美さんの『最高のリーダーは何もしない』では、明確なビジョンを持ち、それを浸透させることこそがリーダーの仕事であり、そうすることで現場は自主的に動くことができる、と考察しています。

米山さんは「メンバー巻き込んでいくことで新しい世界観がみえてくる。周囲を巻き込んで考え、進んでいくことが楽しい」とお考えのようですが、どんなふうに周囲を巻き込んでいくのですか? また「塚田農場」などでは現場の裁量も大きいようですが、どのような指示をし、どこまでをマニュアルとしているのですか?

僕が「カリスマ経営者」のマネをしない理由米山久(よねやま・ひさし)
株式会社エー・ピーカンパニー 代表取締役社長
1970年生まれ。不動産業、販売代理店、海外挙式のプロデュース業などを経て、2001年エー・ピーカンパニーを設立、ダーツバーを出店して飲食業に参入。2004年、みやざき地頭鶏専門居酒屋「わが家」を出店。2006年、宮崎県に農業法人を設立、自社養鶏場と加工センターを立ち上げる。2008年度外食アワードを受賞。2011年、自社漁船による定置網漁を開始、漁業でも第1次産業へ進出。現在は「塚田農場」「四十八漁場」など、16業態186店を展開。
2013年、経産省主催「おもてなし経営企業選」受賞。2015年、厚労省主催「パートタイム労働者活躍推進企業奨励賞」受賞。2016年「GREAT PLACE TO WORK」(日本における働きがいのある会社)に入選。著書に『ありきたりじゃない 新・外食』(商業界)がある。

【米山久(以下、米山)】たとえば、今年に入って新しくはじめた「若どり屋」は焼鳥専門店なのですが、オープンにあたって部長以下3人を数ヵ月間、知り合いの焼鳥屋さんに修行に出しました。

もともと地鶏を扱える人間ですから、それなりにおいしいものを出せるようにはなったのですが、新たに骨付きモモ肉を出そうとなったとき、これは他の焼鳥レベルには達していないなと。そのまま商品化したのでは、お客様にも世の中にも失礼だと考えた末、「1000本レッグ」という試みを始めました。

【藤沢久美(以下、藤沢)】1000本レッグ?

【米山】野球の守備練習に1000本ノックというのがある、よし、じゃあモモ肉=脚(レッグ)だから、1000本レッグにしよう、という発想です(笑)。

どんな火加減で、何秒焼くなど、レシピを仮説検証しながら1000本焼く。1000本に届くまではお客さんに無料で提供します。1000本焼いていいものができるかどうか確証はないけれども、やってみる。お客さんには、まだお金をいただくレベルじゃないんでどうぞ食べてください、感想を聞かせてください、とお願いする。

それを繰り返し、繰り返しやっていく。1000本焼いたときにやっと我々の骨付きのモモ焼きのスタイルができる。正しいかどうかわからないけど、方法があるならやりながら検証する、それが、エー・ピーカンパニーらしさ、です。

そういうことをすると、一つの商品を作るのにそういった過程を経た、こういう失敗があったなどのエピソードを語ることができる。1000本焼いてどうなるかわからないけども、まずやってみよう、やることに意味がある、と思うんですよね。

【藤沢】すごい! 食べに行きたい。
そうすることで、スタッフは商品に感情移入するでしょうし、お客さんも商品化に参加したような意識を持つでしょうね。まさに、生産者も、メンバーも、お客様までをも巻き込んでいる感じ。

でも、コストはどう考えるのですか?

【米山】無料提供したうえで利益を出せというと現場から不満が出るので、1000本分の原価29万8000円は広告宣伝費として本部で持つと言っています。将来のキラーコンテンツのためのコスト、という考え方です。

通常原価が30%じゃないと利益がとれませんが、これまでも、魚だったり、地鶏だったり、我々が利益をとれるレベルに達していない段階では原価率50%で提供していました