「トップ・マネジメントの教科書」CEOとCFO その新しい関係
2016年4月11日 

CFO進化論【後篇】
CFOと経理・財務部門の役割は拡大・変化している

髙見陽一郎・EYアドバイザリー パートナー
田上 純・EYアドバイザリー シニアマネージャー

EYアドバイザリーが「フォーチュン・グローバル500」企業と「日経225」企業、それぞれ約100社のCFOについて調査したところ、そのキャリアの違いが大きく浮かび上がった。すなわち、欧米のグローバル企業では、さまざまな国や地域、事業を経験させながら、経理・財務にも経営戦略や事業にも明るい、言わば「スーパーCFO」を育成している。この結果を裏づけるように、多くの調査がCFOに期待される能力と役割が拡大していることを示している。本稿では、21世紀にふさわしいCFOを探るために、その役割やキャリア・デザインについて考察する。

CFOに求められる
4つの「顔」

 求められる「能力」と「役割」から考えると、CFOをはじめ、経理・財務部門のマネジャーは、大きく4つのタイプに分類できる(図表「進化するCFOの役割」を参照)。

進化するCFOの役割拡大画像表示


 そこで、縦軸(能力)に「ビジネス・リテラシー」と「ファイナンス・リテラシー」、横軸(役割)に「実務家」(業務の遂行や計数の作成)と「戦略家」(戦略の執行や仕組みの立案)を取り、こうして類型化された4タイプについて定義を試みた。

[1]オペレーション・マネジャー
 基本的な経理・財務機能をつかさどる責任者である。会社の取引を正確かつ遺漏なく記帳し、必要な財務情報を定期的、あるいは求められた時に、迅速かつ的確に経営陣や現場に提示できなければならない。そのほか、キャッシュ・マネジメント、決算業務、金融機関との折衝、IR(投資家向け広報)用資料の作成など、経理・財務に関わる実務のほとんどを担当する。

[2]オペレーション・デザイナー
 グループ会社を含めた内部統制の整備、経営のグローバル化への対応、経理・財務部門のリエンジニアリング(業務プロセス改革)を推進する。
 内部統制では、コーポレート・ガバナンス、全社的リスク・マネジメント、コンプライアンス(法令遵守)なども守備範囲となるため、他のスタッフ部門との連携や調整も増える。
 また、グローバル化では、IFRS(国際財務報告基準)の適用、あるいはグループ経理・財務業務の標準化への対応、国際税務等を踏まえたキャッシュ・マネジメント・システムの構築などを担当する。
 そのほか、経理・財務部門の業務効率化、組織能力の向上に努めると同時に、メンバーたちの教育や能力開発、キャリア・パスの設計など人材マネジメントにも注力する責任がある。
 守備範囲は、[1]と同じく経理・財務領域に限られるが、外部環境の変化、企業の方向性、将来動向を踏まえた戦略的な考え方や行動が要求される。

[3]パフォーマンス・マネジャー
 経営にはサイエンスとアートの二面性があるといわれるが、まさしくサイエンスの側面を担当するのが、このタイプである。
 すなわち、経理・財務のプロフェショナルとして、会社全体だけでなく個々の事業について、現状分析、潜在リスクの測定、将来予測などを定量的に提示し、事業計画や予算立案、M&Aなどの意思決定に積極的に関与・支援するなど、事業部門のファイナンス・リテラシーについても助言やコーチングを提供する。
 VUCAワールドにあっては、リスクの測定とそれに基づくリスク・テーキングが極めて重要なカギを握る。必ずしも万能ではないが、たとえば、金融工学や高度な統計手法を駆使することで、リスク・マネジメントの精度を向上し、企業価値や事業価値の最大化に貢献することもできる。もちろん、専門家や他部門の協力が不可欠になるが、こうした戦略的リスク・マネジメントのリーダーシップを担うべきは、やはりCFOであろう。

[4]ビジネス・パートナー
 以上[1]〜[3]の能力とスキルを備えた経理・財務組織のリーダーであるだけでなく、CEOをはじめとする他のCクラス役員にとってのビジネス・パートナー、あるいは各事業を預かるシニア・マネジャーたちのコンサルタントとしての役割を兼ねる。
 また、甘い見通しや計画に対しては、そのファイナンス・リテラシーを発揮して、時にはデビルズ・アドボケイト(建設的な議論や賢明な解を生み出すために、あえて反論や異論を提示する役割)として振る舞う必要があるかもしれない。
 具体的には、経理・財務の視点だけでなく、戦略や企業の視点から、経営戦略、経営資源の配分、設備やIT、R&Dなどに関する投資、各事業の計画や戦略、M&Aなどについて、意見やアドバイスを提供する。必要とあれば、みずから現場に赴いたり、プロジェクトに参加したりもする。
 また今後は、事業ポートフォリオ管理、財務会計と管理会計、キャッシュ・マネジメント、リスク・マネジメントなどをグループ全体で最適化する「グローバル経営プラットフォーム」を構築することが求められており、この一大プロジェクトのリーダーに最も適しているのはCFOであろう。

 これら4つの類型は、企業の規模、グローバル化の進展度に対応している。したがって、あらゆる企業にすべての「顔」を持ち合わせたCFOが必要であるというわけではない。ただし、一つだけ確実に言えるのは、CFOはCEOのよきパートナーとして、企業価値の最大化に最も貢献できる立場にあるということである。

 CFOとそのスタッフたちが、ビジネス・リテラシーを高め、経営戦略や事業計画にこれまで以上に関与するようになれば、財務・会計データの提供に留まらず、経営戦略と財務との整合性、事業ごとの特性やリスクの反映、複数の将来シナリオの提示など、より科学的で実際的な意思決定に貢献できるようになる。

 その結果、株主や投資家に対して説得力ある説明ができるだけでなく、従業員やパートナー企業を含め、他のステークホルダーからの理解や協力も得られやすくなり、業績の向上、各種コストの低減、優秀な人材の獲得など、好循環経営に向かっていく。

次世代CFOの
キャリア・デザイン

 すでに見てきたように、日本企業のCFOと欧米企業のCFOとの間では課題意識に違いが見られるものの、前者の81%が「経理・財務部門の人材育成」と回答し、これが第1位であったように、次世代CFO人材として、どのような人材を、どのように育成し、継承していくかは重要な課題の一つと認識されているといえる。

 目指すべきは、図表2の[3]パフォーマンス・マネジャー、そして[4]ビジネス・パートナーである。

 そこへの道は、少なくとも2通りあるだろう。すなわち、先に紹介したユニリーバやフィリップスのように、さまざまな地域や事業部門の経理・財務組織を経験させながら、この分野のプロフェッショナルとして陶冶していくか、P&Gやデュポンのように、財務・経理部門の経験もキャリアの一つと考え、ゼネラル・マネジャーとして育成しながら、どこかの段階でCFO候補としての経験を積ませるかのいずれかである。

 ただし、こうしたキャリア・パスを検討する前に、CFOと経理・財務部門に今後期待される役割を再定義する必要がある。その際、欧米企業と日本企業の比較が役に立つ。

 デューク大学フュークア・スクール・オブ・ビジネスとアメリカ『CFOマガジン』誌の共同調査「CFOグローバル・ビジネス・アウトルック・サーベイ」においても、「アメリカのCFOは戦略的意思決定を担う最高経営者であるのに対し、日本のCFOは経理に関する日常的・業務的な意思決定を行うスーパー経理部長としての性格が色濃い」と指摘されている(注1)

 この点に関して、我々のコンサルティング経験から、「欧米企業のCFO組織では一般的だが、日本企業では必ずしもそうとは言いがたい活動」を洗い出してみた。

企業価値の評価と検証、および向上策の立案
グループ全体および各事業部門の戦略立案やレビュー
経営企画、IR(投資家向け広報)など、他の職能との協働

 このように見ると、欧米企業では、CFOと経理・財務部門のミッションとして「企業価値の最大化」を第一としているが、日本企業の場合、「経理・財務機能の向上」という認識が強い。

 こうした状況を変えていくには、経営企画部門と経理・財務部門の統合、経理・財務機能のグローバルな統合と最適化、CFOの権限と役割の再定義といった組織的な施策の一方で、CFO組織人材のビジネス・リテラシーの習得、他部門での経験など、CFO組織の自己変革が同時に必要だろう。

 そのためには、CFOが経理・財務部門のチェンジ・リーダーとなって、次世代の経理・財務部門のあるべき姿を描き、そのために不可欠な能力やスキル、システムや教育研修などを特定し、具体的な実行計画に落とし込まなければならない。もちろん、言うは易しであるが、幸いにして、CEOや他の役員たちも、CFOへの期待を高めている。ならば、後は決断と実行である。

 藤沢武夫氏は、いみじくもこう述べている。

「世界を常にリードしてゆける、つまり、ここ1年や2年の勝負ではなく、50年、100年というものをリードしてゆける体制をつくって、次の人にバトンを渡してゆく義務をわれわれは持っている(注2)

注1)Duke University Fuqua School of Business and CFO Magazine, “CFO Global Business Outlook Survey,” 2015.

注2)藤沢武夫『松明は自分の手で』(産業能率短期大学出版部、1974年。2009年にPHP研究所が復刻)

コラム:女性CFOの現実

 2015年の「フォーチュン500」を見ると、女性CEOは22人だが、女性CFOは58人います。売上高による上位10社を見ると、IT系やB2C企業が多数を占めていますが(図表「『フォーチュン500』の女性CFO十傑」を参照)、全体では、金融、航空、化学、パルプ・製紙、鉱工業やエネルギーなど、ほとんどの産業にわたっています。

注)

 ちなみに、22人いる女性CEOの中でCFOを経験しているのは、ペプシコのインドラ・ヌーイ氏、オラクルのサフラ・カッツ氏、デューク・エナジーのリン・グッド氏、センプラ・エナジーのデブラ・リード氏のわずか4人です。

 ヘッド・ハンティング会社のコーン・フェリーが2015年版「フォーブス・グローバル2000」(売上高、利益、資産、市場価値に基づくランキング)のCEOについて調べたところ、前職がCFOとそれに準ずる職位の経理・財務マネジャーであった人は全体の18%、およそ5人に1人だったそうです(注)。ひるがえすと、単純に比率だけで見れば、CFOからCEOの「グラス・シーリング」(見えない天井)に性差は関係なさそうです。

 日本に目を転じれば、上場企業におけるCEOやCFO、また執行役員において、女性は極めて少数派です。経営のグローバル化、人材の多様性が進んでいく中、未来のCFO人材を育成するうえで、女性CFOという選択肢を排除することは許されないでしょう。(終)

注)Gary D. Burnison, “CFO to CEO: The Right-brain Leadership Gap,” Korn Ferry Institute, June 12, 2015.

(構成・まとめ/奥田由意)