日経平均は1万円台に乗せたが、日本企業が本当に復活するためには何が必要なのか。日本では大企業になると成長が止まるといわれるが、アメリカではずっと成長し続けている大企業が多い。ファンドマネジャーとして5000社以上を訪問、20年以上勝ち残ってきた投資のプロ藤野英人さんと、人気ブロガーのちきりんさんに、これからの日本について語ってもらう特別対談の第3回。成長を続ける企業はここが違った!

低迷する日本の大企業と、
成長続けるアメリカの大企業の違いとは?

ちきりん 前回お聞きしたのは、日経平均など主要株価指標にはどうしても成長性の乏しくなった産業ばかりが多くなりがちというお話でした。でもアメリカのNYダウは、日経平均やTOPIXに比べればそこそこ順調なトレンドが続いているようにも見えるのですが、そちらはどうなんでしょう?

なぜ、夢を語れない企業は成長しないのか。<br />日本とアメリカの大企業の決定的な違いとは?藤野英人(ふじの・ひでと)レオス・キャピタルワークス取締役・最高投資責任者(CIO)。 1966年富山県生まれ。90年早稲田大学卒業後、国内外の運用会社で活躍。特に中小型株および成長株の運用経験が長く、22年で延べ5000社、5500人以上の社長に取材し、抜群の成績をあげる。2003年に独立、現会社を創業し、現在は、販売会社を通さずに投資信託(ファンド)を直接販売するスタイルである、直販ファンドの「ひふみ投信」を運用。ファンドマネジャーとして高パフォーマンスをあげ続けている。ひふみ投信 http://www.rheos.jp/ ツイッターアカウント@fu4

藤野 それは、いい質問ですね! 私は日本とアメリカの大企業には重大な違いがあるのではないかと思っています。それは「真面目さ」という点です。私は、日本の大企業の多くには本当の意味での「真面目さ」がなくて、アメリカの大企業の多くにはそれがあるように思えるのです。

ちきりん 「アメリカの企業の方が真面目」というのは意外ですね。一般的には日本の方が「真面目」のイメージがありますが。

藤野 真面目の本来の意味は、「物事の本質に忠実であること」なんです。でも、日本社会における真面目な人っていうのは、「遅刻をしません」とか、「上司のいうことをよく聞きます」とか、形式的な意味の真面目さをいう傾向が強いように思えます。

ちきりん なるほど、そういう意味なんですね。

藤野 その結果として、日本の大企業の多くは、外から見ていて、社長のメッセージとかを聞いてもワクワクしない。なぜかというと、ワクワクしたビジョンとか会社のあり方というのは、「この会社の存在意義は何か」という本質を真面目に考えつくした結果として出てくるものだと思うからです。

 僕は2000年にアメリカのコムデックス(世界的なITビジネスの展示会)に行って、マイクロソフトのビル・ゲイツを始め、ヒューレット・パッカードやシスコシステムズの経営者の話を直接聞きました。そこですごく印象的だったのは、彼らが「今後、どういう社会にしたいのか」とか、「その中で自分たちはどうあるべきか」をとうとうと語っていたことなんです。

 また3年前にはインドに行って、インフォシス・テクノロジーズという世界的なIT企業の会長と面会したのですが、彼は「世界の貧富の格差の元凶は教育格差にある。その問題を解決するために、インド工科大学や、ハーバード大学の授業をできるだけ低単価でインドの最貧層のに届ける仕組みを作りたい。自分たちが存在するのは、そういう使命を果たすためだ」と語るわけです。

 つまり今お話ししたような経営者の人たちは、「自分たちはどうあるべきか」とか、「成功とは何か」とか、「企業とは何か」ということを普段から突き詰めて考えている証拠だと思うんですね。

 一方で、日本の大企業、たとえばNTTとか、ドコモとか、ソニーとか、パナソニックなんかに話を聞きに行っても、経営者からそういうメッセージってまず聞かないんですよ。「今期どうやって収益を上げるか」とか、「リストラをどういう風にするか」とか、「最近アップルがスゴイけど、それにどう対抗するか」という話ばっかりです。

ちきりん それは確かに日本の大企業っぽいですね(笑)。「ビジョナリ-・カンパニー」という言葉がありましたけど、日本の会社の経営者、特に大企業のサラリーマン経営者ってほんとにビジョンを語らないですよね。

藤野 自分たちは世界をどういう風に変えたいのかとか、それに関して自分たちは何かできるのかという話をしないし、そういうことを議論するのはカッコ悪いことだと思っている節がある。だから若手社員が「この会社が存在するのはどういう意味があるんですか」なんていう根本的な問いを発したら、課長はそれに真面目に答えようとせずに「そんなこと考えるなら営業に行け」とかいわれますよ、たぶん(笑)。

ちきりん そういうのを熱く語るのがカッコ悪いという雰囲気があるんでしょうか? それとも、そういうことを考えること、話すことで組織を鼓舞し、顧客や株主を魅了するのも経営者の仕事であるという感覚や常識が欠けているんでしょうか?

藤野 両方でしょうね。大企業の社長のほとんどはサラリーマンなので、創業者と違って「自分たちの存在意義は何か」という根本的な問題を考えずに、どちらかというと事業活動の成果を上げて出世して社長になったわけです。大企業の社長で、自分のアタマで考える習慣がない人たちが多くなっているという感じがします。

 そこで、最初のちきりんさんの質問に戻っていくと、NYダウに入っているような、アメリカの時価総額上位の会社って、今でもそういう根本的な議論をしている会社ばかりなんですよ。

ちきりん つまりアメリカの場合、大企業であってもその企業の存在価値を根本的なところから常に考えているからやるべきことも明確になり、必要な時には大胆なリストラをしたり、斬新な製品やサービスを生み出すことができるということなのですね。