哲学者の岸見一郎さんと、博報堂のマーケティングアナリスト・原田曜平さん。岸見さんが『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)で展開したアドラー心理学と、原田曜平さんが『ヤンキー経済』(幻冬舎新書)で語るマイルドヤンキーは、一見あいいれないものですが、どちらもいまの若者を論じるうえでの重要なキーワードです。今回は、若者気質の国際比較や、昨今よく議論される承認欲求について、ふたりのフィールドからそれぞれ感じるところを話していただきました。(構成:稲田豊史)

経済が成熟すると
「嫌われる勇気」がなくなる?

原田曜平(以下、原田)『ヤンキー経済』では、給料が今より5万円アップしたらじゅうぶん幸せ、という若者の声を紹介しましたが、かつて群馬のハローワークで、給料は3万円でいいという若者に出会いました。3万円アップじゃないですよ。3万円もらえればハッピー、です(笑)。

【原田曜平×岸見一郎 対談】(中編)<br />ねじれた承認欲求が生み出す「嫌われたくなさ」岸見一郎(きしみ・いちろう)
哲学者。1956年京都生まれ、京都在住。高校生の頃から哲学を志し、大学進学後は先生の自宅にたびたび押しかけては議論をふっかける。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学(西洋古代哲学、特にプラトン哲学)と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。精力的にアドラー心理学や古代哲学の執筆・講演活動、そして精神科医院などで多くの「青年」のカウンセリングを行う。日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。訳書にアルフレッド・アドラーの『個人心理学講義』『人はなぜ神経症になるのか』、著書に『アドラー心理学入門』など多数。『嫌われる勇気』では原案を担当。

岸見一郎(以下、岸見) それはすごい。『ヤンキー経済』を読むと、原田さんは若い人たちに上昇志向がないことを、肯定的にとらえられているようですね。彼らとしては、「ささやかな幸福で満足しておけば、それほど人とぶつかることはない、だから嫌われなくて済む」という論理構造なんでしょうか?

原田 うーん、肌感覚として感じているのは、国の経済成長が一段落して成熟段階に入ると、その国の若者の間から上昇志向が減り、「嫌われたくない」という気持ちが増える、ということです。経済が成熟し、給料が上昇する気配のない社会では、それを期待するより、周りとの調和を考えるようになるんだと思います。自分だけ突出して成り上がると悪目立ちしてしまいますし。

岸見 日本以外の国はどうなんですか?

原田 北京オリンピック前の中国は経済がイケイケでしたから、現地調査に行くと、若者気質も日本とぜんぜん違いましたね。端的に言うと、会う人会う人、発言がビッグマウス気味なんですよ(笑)。「社長になりたい」だの「僕、企業で働く気なんてありません」だの「日本人はダメですね」だの。良く言えばエネルギッシュで、周りの目なんか一切気にしていない。まあ、KY(「空気読めない」の略。その場の雰囲気やニュアンスをつかめず上滑りしてしまう人のことを指す俗語)というか。

岸見 想像できます。