前回、女子学生が発した質問の中で触れた「本質的な問題の発見」という言葉に引っかかった人は、どのくらいいるでしょうか。普段から何気なく使っている人もいるかもしれませんが、実は問題解決ではとても重要な意味を持ちます。マッキンゼーの人材育成責任者として実践し、BBT大学の講座で人気の著者が、普通のビジネスパーソン向けに書いた『はじめての問題解決力トレーニング』から、エッセンスを紹介していく連載第2回です。

 本質的な問題の発見とは、すなわち、問題を正しく捉えることです。問題を正しく捉えるためには膨大な作業が必要となりますし、前提として、論理的に考える力が備わっていることが求められます。問題解決のプロが必要とされる理由は、まさしくここにあります。

 問題点を探るのがそんなに大変なのかと疑問に感じるかもしれませんが、ちょっと考えてみてください。自社の売上げが伸びない理由は何だと思いますかと、10人の社員に聞いたら、おそらく数十通りの答えが出てくるはずです。

 製品がよくないという意見もあれば、新規顧客開拓ができていないというのもあるでしょう。なかには人の教育ができていないことや、マニュアルがないことを理由に挙げる社員もいるでしょう。会社の雰囲気が悪いという意見もあるかもしれません。

 こうして並べてみると、抽象レベルの高い問題やそうでない問題、大きな問題と些末な問題が混在していることがわかります。

 本質的な問題の発見とは、これらを整理したうえで事実関係を確かめて、そもそもそうした“問題現象”が起こった根本原因を探すことです。いかにも手強そうですね。素人ではなく、プロの仕事だと思われるのも、仕方がないことなのかもしれません。

自信がない、経験がない<br />普通のサラリーマンのための問題解決法

プロにはプロの、
アマチュアにはアマチュアの
問題解決がある

 ここで、プロフェッショナルとアマチュアの問題解決の違いを考えてみましょう。プロのコンサルタントは、自分がまったく知らない事業を行うクライアントのところに行って、問題を発見し、解決策を提案することを生業としています。

 現場に立ったことのない人間が、その事業を知り尽くしている経営陣を説得するのですから大変です。生半可な理解では提案に価値を感じてもらえません。ですから、膨大なデータを収集し、緻密な分析を行い、論理のほころびがないようにがっちりと問題発見を行います。これが、コンサルタントの業である「問題解決」のアプローチです。

 同じくプロフェッショナルであるアナリストは、分析の専門家です。あるテーマに対して、どんな情報をどのように収集し、どう分析すれば正しい答えを導き出せるのか。日々研鑽を積んで、専門家に向けたレポートなどを提供するのを生業としています。統計や情報処理、データの整合性の分析といった前提となる専門知識を持ち、複雑な分析を行うこともできます。

 では、こうした高度な技術や厳密性がアマチュアにも求められるかといえば、わたしはそうは思いません。実践するアマチュアとしてレベルアップしたいと思うみなさんが、そこまでする必要はありません。なぜならば、みなさんは問題解決についてはアマチュアでも、自社のことについてはある意味でプロだからです。

 自社の組織や事業についてはよく知っているみなさんの場合、解決の方向性を見出すことにつながる、問題の“あたりづけ”ができれば、それで十分です。完璧に問題を理解することができなくても、方向性が正しいとわかれば、まずは解決策を試してみる。もしもそれでうまくいかなければ、やり方を変更すればよいのです。

問題の“あたりづけ”で
核心に近づく

 あたりづけは、もちろん“あてずっぽう”とは違います。重要な項目については事実(数字)やインタビュー(定性情報)できちんと情報を集めたうえで、それにもとづいて、おそらく問題はこのあたりにあると見極めるのがあたりづけです。

 100%の証明をするには大変な労力がかかりますが、ある程度の情報があればほぼ間違いのない仮説が立てられます。いま企業の現場でより必要とされているのは、プロの問題解決ではなく、こうした実践するアマチュアのざっくりとした問題解決なのです。

 もちろん事実に忠実であることは不可欠なので、ある程度の量のデータは扱いますが、方向性を見極めるための重要なデータさえ押さえておけば十分です。高度な分析も不要で、アナリストが駆使する複雑なテクニックの代わりに、グラフを描いて数字を理解していきます。それでも足りない情報は、お客さまや現場の人にインタビューすれば、だいたいのことはわかります。

 ですから、みなさんには臆することなく、“アマチュアの問題解決”に取り組んでいただきたいと思います。

 本書は、大企業であれ中小企業であれ、自分が属する部門や会社の業績を高めたいと願う人たちに、どのようにすればより簡単に問題のあたりづけをして、解決法に取り組み、成果を上げることができるかを説明したものなのです。

 次回から、そのプロローグをご紹介していきます。

(次回は、5月19日公開予定です)