30年前、東海バネ工業の渡辺社長が訪ねた酒屋は、何の変哲もないフツーの酒屋さんだった。だが、店主の話を聞いて渡辺は驚かされる。

東海バネ工業の二代目社長、渡辺良機(わたなべ よしき)氏

渡辺社長:酒屋の大将、私が行くなり出てきて下さって、自信満々こんなふうにおっしゃるんです。

 「いまな、このあたりの酒屋で、年間1億円売ってる酒屋が、よう売れとると言われている。そやけどうちはその3倍売っとるで」。「ひゃー、どうして3億円売ってはりますねん」と聞いてみた。「いやー、わしは何もしとらん、朝起きてコンピュータのスイッチを入れるだけや」。

 そこで見せてもろうたコンピュータの画面には、何月何日行くべきお客さんのリストと売り込むべき商品が、ダーッと出てるやないですか。

 「これをプリントアウトして、お店のもんに渡し、軽トラックに商品積んで、行って来いというけだけや。酒屋は空振り覚悟の御用聞き商売というが、うちは空振りないで。うちは酒やビールや醤油を売ってへん。システムをこうて(買って)もろうてんネン」と。

 僕ね、酒屋さんが商品を売らんと、システムを売ってはる。東海バネもこれいける、これを使うべきや、データベースでバネづくりをしなければいけないと、気づいたんです。

 その当時も500~600社のお客さんいましたが、要(い)るときいるとき発注、要るだけ買いの、わがままなお客さん。注文は100%が、繰り返し=リピート・オーダーですわ。

 リピートいうても、毎月とか、3カ月に1回とか、年に1回という定期的なリピートではなく、発注が不定期なんですよ。中には10年ぶり、15年ぶりという注文もある。それを受注して、生産して、お届けするというシステムは、マンパワーに頼っていた。