今スマホで見ている情報や、今いる場所のデータを基に、適切な製品・サービスを秒以下で提案する。そんな「超リアルタイムな顧客体験」が、テクノロジーの進歩で実現可能になった。エンタープライズ(大企業や官公庁、法人)向けのビジネス変革を20年以上にわたって支援し、2024年4月にBraze日本法人の代表取締役社長に就任した水谷篤尚氏は「日本の法人向けITサービスには、多様性とリアルタイム性を持った顧客体験の提供が求められている」と提言する。

日本企業は「表層の競争力」を強化すべき

 スマートフォンやSNSの急速な普及によって、顧客エンゲージメントの在り方は大きく変わった。

「かつては、テレビが顧客にとって最も身近な情報収集手段でしたが、スマホに置き換わり、閲覧できるチャネルも膨大になったことで、顧客の嗜好やニーズは著しく多様化しています。しかも、欲しい製品・サービスの情報がすぐ手に入るというリアルタイム性も高まっている。『多様性』と『リアルタイム性』。この2つをいかに満たした顧客エンゲージメントを実現できるかが、今日の企業経営、マーケティングにおける大きな課題です」

 そう語るのは、2024年4月に就任した、世界中のエンタープライズが利用するカスタマーエンゲージメントプラットフォームを提供するBraze日本法人の水谷篤尚代表取締役社長だ。

 水谷社長は、エンタープライズ向けビジネスアプリケーションの分野で20年以上の経験を持ち、直近ではSAPジャパンでバイスプレジデント兼Chief Sustainability Officerとして活躍。特に自動車業界をはじめとする製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に貢献してきた。

「いわば、日本のエンタープライズのバックエンド業務変革を支援してきたのですが、その中で、日本企業がグローバル市場で勝ち抜いていくためには、“深層の競争力”だけでなく、“表層の競争力”をもっと磨くべきではないかと思い至りました。そこで、まったく未経験の分野だった顧客エンゲージメントの領域でキャリアを再出発させることにしたのです」

「いいモノを、低コストで、効率よく作る」という“深層の競争力”は、日本の製造業ならではの強みだが、一方で、ブランド力や価格力、デザイン力といった“表層の競争力”はどちらかといえば弱い。その大きな原因の一つが、「顧客エンゲージメントや消費者の購買行動の変化」に十分対応できていない点にあるのではないかと、水谷社長は考える。

 次ページ以降で、具体的に、日本企業のマーケティングにおける大きな課題やその解決策となるサービスなどの実例を紹介していく。