この10年程度の間に、情報に関連した仕事の進め方は革命的に変わった。インターネットを通じて情報が得られるようになったからだ。このような変化に適切に対応できるか否かは、仕事の能率に格段の違いをもたらしている。
この連載では、インターネット時代において知的な仕事をいかに進めたらよいかについて、さまざまな側面から考えることとしよう。情報が関連する仕事の進め方は、これまでとどのように異なるものになったのか。インターネットを利用する際の最重要のポイントは何か。まず最初に、こうした点について考えることとする。
情報を探し出すより、消化が大変
最初に重要なことは、「情報を探し出すこと」より、「探し出した情報を消化すること」のほうがはるかに大きな労力を要するようになったことだ。
20年くらい前までは、「必要な情報を探し出す」ために、大変な労力が必要だったのである。とくに、研究者の場合にそうだった。
30年くらい前のことだが、経済学の学術誌や専門文献のどこにどのようなことが書いてあるのかを、まさに「生き字引」のように知っている人がいた。多くの研究者が、彼のところに、「このテーマについて勉強するのは、何を読めばよいのだろうか?」と指南を仰ぎに行った。その人は実に有用な情報を教えてくれるので、多くの人が感謝していた。
しかし、いまではこうした人の有用性は、まったくなくなってしまった。調べたいテーマがあったら、まずインターネットで検索してみればよい。大学にいる人であれば、図書館のネットワークで検索する。すると、そのテーマを含む文献を直ちに見出すことができる。そこで見つかった文献から芋づる式にたどってゆけば、必要な文献や資料は簡単に探し出すことができる。
むしろ、それらを読むほうが大変な作業だ。考えてみればそれが当然のことなのだが、一昔前までは、このウエイトはまったく逆だったのである。必要な文献を探すまでに大変な労力が必要で、いったん文献を見出したあとそれを読んで消化するのは、それほど大変ではなかった(文献の数が限られていたことも、大きな理由だ)。
ちなみに、先に述べた「文献のありかを生き字引のように知っていた人」は、文献の内容まで読む時間はなかったようだ。そのため、多くの人から便利にされたものの、自分自身の研究は進まなかった。そして、いまとなっては、誰からも感謝されることはない。この人は、IT革命によっていかなる価値も奪われてしまった気の毒な存在である。