その昔、稀代の人気棋士だった升田幸三氏が、ホンダ(本田技研工業)の工場を訪れたときに、本田宗一郎氏に向かって言った言葉があります。
それは、「あんたのところは歩(ふ)をうまく使っているなあ」というものでした。
“歩”とは、会社で言えば、末端の一般社員。その末端の一般社員をうまく使っていると褒め称えたわけです。
これこそが、経営者やチームを預かるものにとっては“最高の褒め言葉”ではないでしょうか。
工場の守衛さん、清掃員、一般事務員――。こうした役割の人たちが皆イキイキと、そして誠実に仕事をしていることは、とても素敵なことです。
そして、一見簡単なように見えても、それはそう簡単には実現できないことです。どうしたら、“歩”が元気な職場を作れるのでしょうか。
この連載コラムでは、第4回において「ニワトリを殺さない職場」、つまり、社員の挑戦を支援するマネジメントの重要性について取り上げました。今回は、「認知」が持つパワーについて、お話します。
人は自分を認めてくれる人を
好きになり、頑張ろうとする
人はどんな人を好きになるか?
それは、「自分を認めてくれる人」です。人は、自分を否定する人を好きにはなれません。
「こんなことができる」「こんなよいところがある」というのは、その人にとってアイデンティティそのもの。この部分に気付いてもらえると、「自分は認められた」と嬉しくなる。そんな経験が誰しもあるはずです。
現在、たくさんの企業が成果主義を導入しています。しかし、失敗しているケースも数多いのが実情だそうです。
理由はたくさんありますが、その1つを挙げると、「単純な成果主義では、認められるのはもっぱら業績のよい人、目立つ仕事をしている人だけ」だからです。