ベトナム 2017年11月15日

都市部でも救急車は来ない。地方で事故にあうと大変ベトナムの緊急医療事情【その2】

誰も助けてくれない」という覚悟が必要

 前回紹介した私の妻の例のように、家で倒れた場合はいい。しかし一人で外出中に交通事故に遭い、本人が意識を失っている場合は、どうなるのだろう。取材に応じてくれた医療関係者に問いかけると、予想はしていたが、ゾッとする答が返ってきた。

 「冷酷な言い方になりますが、誰も助けてくれないと考えておくべきです。考えてもみてください。道で倒れている見ず知らずの人のために、お金を払って救急車やタクシーを呼び、病院まで連れて行ってくれる奇特な人がいるでしょうか」

 以前、私の日本人の知人が脚を複雑骨折する交通事故に遭ったことがある。彼は、ベトナムの医療事情を知っていたので、時々遠のく意識と戦いながら、周囲の人にタクシーを呼ぶように依頼し、やってきたタクシーに、国外への緊急搬送をしてくれる病院の住所を告げた。タクシーが動き出した後、ホッとして気を失ったそうだ。これだけのことを、ベトナム語でやり取りするには、語学力に加え、相当の精神力が必要である。

 行政側も無策ではない。ホーチミン市では、全国で初めて「緊急医療対応ができる115番態勢」を、2015年1月に発足させた。しかし、これも緊急搬送先になっている病院は5つのみ。事故の発生現場が、病院から遠い場合には役に立たない。発足1年後に実情調査をしたところ、残念ながら、機能していなかったそうだ。

地方で事故や病気になると大変

 それでもホーチミンシティのような、近代的な設備を持っている病院がある大都市は、まだ恵まれている。問題は地方で緊急事態が発生した場合だ。

 メコンデルタへの日帰りツアーに参加している友人一家の息子さんが、怪我をしたことがあった。場所は川の中州の島の中。島から出ればミトーという比較的大きな街がある。電話を受けた私は、ミトーの病院を勧めるべきか、ホーチミンシティまで戻ってきてもらうか、迷った。ミトーからホーチミンシティまでは車で1時間半かかる。

 電話で状況を聞いてみると、出血が止まらないなど、緊急を要する事態ではない。そこで高い医療レベルを持っている病院があるホーチミンシティまで、タクシーで戻ってきてもらうことにした。保険も使える大型病院の住所を告げて、私もそこに向かい、無事、治療をすることができた。

 私自身も、似たような経験をしたことがある。今から6年くらい前。ブンタウという海沿いの街に、週末に家族で遊びに行った時のことだ。私と妻がホテルのチェックアウト手続きのため、ちょっと娘から目を離したスキに、彼女がホテルの回転ドアに脚を挟まれてしまったのである。

 今はブンタウにも外資系の近代的な医療機関があるが、当時はまだなかった。ホーチミンシティまで戻るには遠過ぎる。ホテルのスタッフに市内でいちばん信頼できる病院を紹介してもらい、タクシーで娘を運び込んだ。医師はテキパキと処置をしてくれ、1時間後くらいには、ギプスをはめた状態で病院を出ることができた。

 ホーチミンシティまでの戻りは、高速船を予約していたが、最終便も出航した後である。翌日には2人とも仕事があるので、その日中にホーチミンシティに戻らなければならない。鎮痛剤を打ってもらいおとなしくなった娘を抱きかかえて、夕暮れのバスターミナルに行き、3時間以上かけてバスで帰宅した。
 
 ホーチミンシティに戻ってから、改めて病院に行ったところ、ブンタウでの手当は非常に適切だったそうだ。今ではその傷跡を探すことすらできない。

 「ベトナムの緊急医療事情・その3」では、気になる費用の話と、我々が取れる対策を紹介する。

ホーチミン市内であれば、写真のような近代的な病院がある。待ち合い室は、まるで高級ホテルのような雰囲気だ【撮影/中安昭人】
【撮影/中安昭人】

(文・撮影/中安昭人)

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筆者紹介:中安昭人(なかやす・あきひと)
1964年大阪生まれ。日本での約15年の編集者生活を経てベトナムの大手日系旅行会社・エーペックスベトナムが発行する「ベトナムスケッチ」(現地の日本語フリーペーパー)の編集長として招かれ、2002年7月にベトナムへ移住。その後独立し、出版および広告業を行なう「オリザベトナム」を設立。 2000年に結婚したベトナム人妻との間に娘が1人おり、ベトナム移住以来、ホーチミン市の下町の路地裏にある妻の実家に居候中。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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