ベトナム 2020年6月23日

【緊急レポート】言葉の通じない異国でコロナ騒動。
ベトナムの日本人社会ではどんな動きがあったのか?

新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言下、ベトナムで暮らす日本人たちの生活は? 学校は? ベトナム在住18年の中安昭人さんが、ベトナムの今をレポートします。

ベトナムに住む日本人は2万人余

 ベトナムに住んでいる日本人も、このコロナ騒動で大きな影響を受けた。今回のような前代未聞と言っていい出来事が、ベトナムに住んでいる日本人たちにどのような影響を与え、そして彼・彼女たちはどの対応したのだろうか。

 ベトナムで在留届を出している日本人の数は2万2125人(海外在留邦人数調査統計2019年版による)。届けを出さずに住んでいる人もいるので、実数はこれより多いだろう。そのほとんどが住むのは、首都・ハノイと国内最大の都市・ホーチミンの2つだ。以下紹介するのは、主に私が住んでいるホーチミンでの話である。

「日本食レストランに行こう」という運動

 今回、コロナ騒動が発生したタイミングは、ベトナムで客商売をしている人間にとって、非常に悪かった。新年を旧暦で祝うベトナムでは、2020年の元日は1月24日。それをはさんで23日から2月2日までがベトナム正月(ベトナムでは「テト」という)休みだった。テトの間、レストランやショップは休業するのが一般的で、この時期は売り上げが落ち込み資金繰りが厳しい時期である。

 「テトが明けたら挽回しよう」と思っていたところに出てきたのがコロナだ。自粛ムードが高まりベトナム人は外出・外食を控えるようになった。希望が見えてきたのは2月の下旬。ベトナムは2月13日以降、新規感染者が確認されておらず、「3月に入ったら経済活動や生活も正常化できるのではないか」という声が高まってきていた。

2月に入って見かけることか_増えたのが消毒用アルコール。写真のような携帯用のものも数多く出回った【撮影/中安昭人】

 その矢先、3月6日、新規感染者が確認されてしまったのである。一気に緊張が高まり、レストランを訪れるベトナム人はさらに激減した。
 
 3月上旬、老舗の日本料理店を訪れたところ、日本人を中心に9割くらいは席が埋まっている。ところが日本人オーナーさん曰く、
「夕食時はガラガラなんですよ。夜はベトナム人の団体さんなどで賑わっていたのですが、それがほぼゼロになりました」。

 在ホーチミン日本国総領事館が2017年に調べた結果によると、市内の日本料理店の数は659軒。3年前と比べて倍増だったという。その後も日本料理店の増加ぶりは目覚ましいものがある。ハノイも入れると、全国で1500軒を超える店舗があるだろう。日本人ももちろん訪れるが、多くの店ではベトナム人客がいないと経営は成り立たない。
 
 例えばホーチミンの人口は約900万人。対してホーチミンの日本人在住者は1万人程度なのだから、母数が全然違う。減ったのはベトナム人客だけではない。日本からの出張者も減り、彼らを日本料理店に案内して接待をする機会も減った。

 3月半ばに私が話を聞いた別の日本料理のオーナーは、「1月下旬以降、売り上げは何分の1かに落ち込んでいます。一日も早くこの状態が終わってくれないと、お店を閉めることを真剣に検討せざるを得ません」と深刻な顔をしていた。他の店でも経営は相当苦しくなっていただろう。

 そんな中、在住日本人の間で「日本食レストランに行こう」という呼びかけが聞かれるようになった。

 異国に住む人間にとって、母国の料理を提供してくれるレストランはありがたい存在だ。「日本食レストランがつぶれないように応援するためには、お店に行って食事をするのがいちばん」というわけで、在住日本人の間で「日本食レストランに行こう」運動が自然発生的に始まったのである。これに賛同して日本料理店に足を運んだ在住者は少なくない。私自身も、この期間は外で日本食を食べる機会を増やした。

 日本酒を提供する角打ちを経営している月森砂名さんも、それに賛同して、積極的に外食をした1人だ。
「日本人街であるレタントン通りやファンビッチャン通りの飲食店で働く人たちを中心に『仲間の店でごはんを食べよう』が合言葉になり、私も一日一回は外食するようにしていました」

 単に食べに行くだけではなく、月森さんは、その様子を自分自身のブログに投稿して応援した。テト前後に開店したお店は経営が特に苦しいだろうと、力を入れて宣伝したという。
 
「コロナ騒動により、社会の中で『不安』や『恐怖』が生まれたところもあったでしょう。しかし私はむしろ『助け合いの心』や『愛』を感じました。例えば、お店が営業できなかった期間中も、毎晩晩酌の時間帯になるとお客様とオンラインでつながって、おしゃべりをしていたんですよ。こういうお客様の応援と、同業の仲間たちに支えられて、大変な時期を乗り越えることができたのだと思います」
と振り返る。

 ベトナムの日本人社会は、まだ村社会のような緊密な人間関係が残っている。お店のオーナーさんと友達のような人間関係になることも多い。こういう助け合いが自然発生的に出てくるのは、村社会のいいところだろう。
 
 この助け合い運動は、社会封鎖が解除された今も続いている。ベトナムは外国人の入国を厳しく制限しているため、観光客や出張者を主な客層としていたお店は「売り上げは前年同月比で90%以上も落ち込んだ」など、壊滅的な状況だ。日本人経営者の店も例外ではない。そういう店に、在住日本人が誘い合わせて足を運んでいるのだ。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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