「教育は無条件に素晴らしい」という強迫観念をそろそろ見直すべき
「本当に不利な立場に置かれた若者たち」(第1章)では妻木進吾氏が、フリーターになった若者たちが進学しなかった理由をインタビューしている。「進学を希望したが経済的に余裕がなかった」とこたえる者もいるが、多くは学校に魅力がないからだ。
「就職したらお給料もらえるじゃないですか。それで学校行くより、お給料もらいながら働けば、家にお金も入れられるし、仕事も早く覚えるしじゃないですか。知り合いの人が学校に行ってて、学校に行ってるだけじゃあんまり意味ないって言われて、働きながらの方が絶対いいからって言われて、それやったら就職しようかなって。……普通の学校は試験に受かるためにだけにしか勉強せーへんから、サロン(現場)に出た時に何もできない人が多いんですよ。だから働いた方がいいって言われて」[19歳・女性・美容院に就職]
「【高校に上がる時点で、大学には行かんと思ってたんや。】あっもう絶対。【なんで?】なんでやろ。たぶん勉強が嫌いやったからやと思う。【大学入ってまで、また2年か4年勉強するのはかなわんなぁと。】かと言って働きたかったわけでもないんですけどね…(笑)」[19歳・女性]
高校に行かなかったり、中退する理由の多くは「授業がわからない」からだ。下の生徒は小学校3年生の段階で授業内容が「意味わからへん」になっているが、聞き取りを行なった困難層のなかでは「特別早いものではない」とされている。
「【小学校は楽しかったですか?】全然楽しくない。勉強がまず嫌いやった。…(嫌いな教科は)漢字とか国語とか。【いつぐらいから嫌いに?】…もう入って、意味分からへんかったから。【小学校に入ると字書くようになるよね? その時からちょっと辛い?】ムカついてた。…【授業中とかどうしてたん?】寝たりボーっとしたり、そんなマジメにせーへんかった。…【先生(が)嫌とかありました?】嫌いやった。【それは何でかな?】寝たら起こされるとか。(略)【…中学校に上がったらより一層勉強わけ分からん?】もう、分からへん。【中学校はどうしてたん?】1年の時はだいたい行ってたけど、2年からはもう行けへんくなった。…行くのがダルくなってきて(笑)。3年はほとんど行ってない。(略)」[16歳・男性・高校中退]
元高校教諭・青砥恭氏の『ドキュメント高校中退 いま、貧困がうまれる場所』(筑摩新書)によれば、少子化で多くの底辺高校は定員割れになっており、中学からの成績がオール1で、不登校の記録に300日あっても合格するという。LD(学習障害)のまま放置されて入学してきた生徒も少なくなく、受け入れる側の高校では「養護学校で適切な教育を受けた方が彼らを救えるかもしれない」と述べる教師もいる。
ここからわかるのは、「すべての子どもが努力して勉強し、大学を目指すべきだ」という現在の教育制度が、学校や勉強に適応できない子どもたちを苦しめているという現実だ。授業の内容がまったく理解できずに中学3年間を過ごせば、同じことを高校で3年やっても意味がないと思うだろうし、ましてや大学や専門学校に進学しようなどとは考えないだろう。
「教育は無条件に素晴らしい」という福沢諭吉以来の強迫観念を、私たちはそろそろ見直すべきではないだろうか。
橘 玲(たちばな あきら)
作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)、『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)、『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)、『もっと言ってはいけない』(新潮新書) など。最新刊は『働き方2.0vs4.0』(PHP研究所)。
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