橘玲の日々刻々 2020年7月13日

男はみんな性依存症。
男性の不倫はこれからも繰り返される
【橘玲の日々刻々】

 新型コロナウイルスの緊急事態宣言が解除されたほっと一息ついたと思ったら、メディアは「トイレ不倫」一色です。事件の詳細は芸能誌に任せるとして、ここでは「男はなぜいつも不倫で人生をだいなしにするのか?」を考えてみましょう。

 素敵な女性と結婚し、かわいい子どもが生まれ、経済的になんの不安もないとしたら、これ以上望むことなどないはずです。理性=意識で考えればたしかにそのとおりでしょうが、じつは無意識はそのようには思っていません。なぜなら、一人の女性が生める子どもの数にはきびしい制約があるから。

 イギリスの進化生物学者リチャード・ドーキンスは、「利己的な遺伝子」の目的は自己の複製をできるだけ多く広めることで、そのためにヴィークルである生き物(ヒト)を「設計」したのだといいます。

 一人の女性と生涯にわたって深く愛し合う男と、出会った女と片っ端からセックスする男がいたとしましょう。道徳的な男は、愛する妻と2人または3人の子どもをつくります。それに対して不道徳な男は数十人、もしかしたら数百人の子どもをもつかもしれません。男にとって精子をつくるコストはきわめて低く、思春期から半世紀以上も生殖能力は持続するので、なんの制約もなければ膨大な数の女と性交できるのです。

 このように考えれば、進化の過程で道徳的な遺伝子が淘汰され、不道徳な遺伝子が生き残ったのは明らかです。私たちはみな、生涯に1000人以上の女性とベッドを共にしたとされるカサノバの末裔なのです。

 魅力的な女性をうまく口説いて子どもができると、男の脳のなかで無意識が「任務完了」と囁きます。子育てはその女性に任せ、さっさと別の女を口説いた方が、利己的な遺伝子にとって費用対効果が高いのです。

 「トイレ不倫」に対して、ワイドショーの女性コメンテーターが「これは性依存症ではないのか」と述べていましたが、「わかってないなあ」と思ったひとも多いでしょう。多目的トイレを使うかどうかは別として、男はみんな性依存症なのです(いわないだけで)。

 だとしたら、女の「純愛」はつねに裏切られるのでしょうか。残念ながら、これまでずっとそうだったように、これからも同じでしょう。数年前から始まった「イクメン」のブームは、数百万年の進化の圧力に対してはなんの役にも立たないのです。

 しかしさらに考えみると、女が特定のパートナーと長期的な関係をつくらなければならないのは、社会の富を男が独占しているからです。女性が経済的に自立し、男(夫)に依存しなくなれば、男女の不均衡な関係は大きく変わるでしょう。

 こうして一夫一妻制は解体し、自由恋愛と多様な家族へと向かっていくのだろうと思いますが、その先にどのような世界が待っているのかはよくわかりません。ひとつだけたしかなのは、男の「モテ」と「非モテ」の格差がいま以上に広がることです。

 私たちはどのような「性愛の本能」を埋め込まれているのか。そんな話を『女と男 なぜわかりあえないのか』(文書新書)に書きました。身も蓋もない話が好きなひとなら、気に入ってもらえると思います。

『週刊プレイボーイ』2020年7月6日発売号に掲載

橘 玲(たちばな あきら)

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 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)、『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)、『幸福の「資本」論 -あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」』(ダイヤモンド社刊)『橘玲の中国私論』の改訂文庫本『言ってはいけない中国の真実』(新潮文庫)、『もっと言ってはいけない』(新潮新書) など。最新刊は『女と男 なぜわかりあえないのか』(文春新書)。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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