一般と総合型、標準的な選抜方式はどちらなのか

後藤 京都大学がAOタイプの特色入試を始める前に、担当副総長が最後まで導入に抵抗していたのですが、人事院に呼ばれた。何を言われたか。「東大や京大の入試って世界一難しいかもしれません。でも卒業生を見ると、ハーバードやMIT(マサチューセッツ工科大学)ほどではないですね」。人事院が決めた公務員給与に基づいて多くの民間の給与は決まっている。日本の人事を全部つかさどっているようなところから、「人材育成がおかしい」って言われてしまった。グウの音も出ないで、特色入試が始まりました。

安田 (爆笑)。高校や受験生からは特色入試は一般選抜よりも楽だといった受け止め方が出てきますよね。東大の理III(医学部)は一般選抜では受かりそうもない。第一志望は京大医学部だけれども、センター試験は8割でいいというし、出願は可能だからちょっと受けてみよう、ダメだったら一般でまた受け直そう。そういう使われ方も出てきますよね。

後藤 東大の推薦入試が始まったとき、開成の高2生に聞いたことがあります。「学校推薦受けるの」って。そしたら彼らは「出願要件が厳しくて、あんなリスクのあるものは受けられません。定員は小さいし、 今からそのために何かやる自信はありません」と。どう考えても一般入試を受けた方が楽という答えでした。残念ですね。

安田 すごく不思議に思ったのは、今までだって彼らはみんな東大に入っているわけです。 科学オリンピックでメダルを取ったりもしているのに、なぜわざわざそれを学校推薦の別枠にして、要件を課すのか。

後藤 科学オリンピックの国際大会の出場者って、数学・物理・化学・生物・地学・地理・情報に数名ずつだから、合わせても高が知れています。

安田 どこの国立大学でもそれを推薦入試の出願資格にしているじゃないですか。

後藤 極端な話、東大にみんな行ってしまうから、早稲田の理工系がいくら数学オリンピックと言ったって来てくれません。

 だから文科省の官僚に以前言ったのは、国際大会に出た生徒だけを褒めるのではなくて全国大会に出た生徒もきちんと褒めてあげないと、出願資格を持つ生徒がいなくなってしまうということです。今の問題は、出願資格をどうやって受験生に与えるのかという話です。「あなたはこれができますよ」と示していないことが一番の問題ですね。

安田 そうですね。それがなければ一般選抜でもいい。それこそ自分の本当の選択じゃないですか。

後藤 一般と総合型、どちらが標準的な選抜方式なのか。高校の教員にいつもそう問うのですが、総合型の方がやはり標準です。人間そのものを評価すれば俯瞰的にできる。大学入学後にどんな学生が伸びるかを、大学が調査したら、情動的スキルがある人だって分かりました。そもそも教育再生実行会議第四次提言は「大学入学者選抜は、各大学のアドミッションポリシーに基づき、能力・意欲・適性や活動歴を多面的・総合的に評価・判定するものに転換」と言っていますが、これ、まるっと従来のAO入試で使われていた文言なんですよね。多面的評価ですから、生徒が書いたポートフォリオも教員が書いた調査書も審査すればよい。

安田 一方でよく思うのは、総合型選抜をどんどん突き詰めていくと、落ちたら二度と立ち上がれなくなる。女子受験生に総合型を受けさせない学校は、落ちたらその生徒が全否定されたみたいになり、一般選抜に気持ちが切り替わらないからと言います。そこには個人のハートの問題もありますよね。

後藤 SFCの初期ですね。あんなに審査されて、何で落とされるのかと。自分が否定されたと皆感じていたと思います。

安田 今はあまり問題にならないですが。