短期的な株主の要求と長期的な成長シナリオを
いかに両立させているのか

松江 株主の利益を追求すると、足元の短期的業績でキャッシュを稼ぐことと同時に、長期的な成長のシナリオをしっかり持って投資をしていくという、その二つに行き着くというお話を伺いました。そのバランスについてお聞かせいただけますでしょうか?

田中 私どもには、両方のプレッシャーがあります。アメリカで上場している会社である以上は、四半期ごとに厳しく言われます。だから日常的には短期的な業績を気にします。それに対して、弊社のアメリカの経営陣は、短期的な株主も大事だが、長期的な株主との関係性を続けるようでなくてはいけない、そうしないと長期にわたり価値を生み続ける商品じゃないともいいます。当社の場合、グローバルの研究開発、技術的分野に使っているお金は22億ドル(約2500億円)です。それぐらい使って何が出てくるのかを短期、中期、長期にバランスをとって示せないといけません。

 ――時間軸をつないでいくための配分というところを原則としてやってらっしゃるんでしょうね。長期的にもリスクがとれる要因はどういうところにあるんですか。

田中 リスクをとらないと長期がないというのが根本にあります。バランスという意味では、たとえばお金の使い方で、長期的に、トータルの2割は使いましょう、3割は使いましょうと決めた上で使う感覚です。それが2割か、3割かは、年と共に変わりますが、そこをゼロにしちゃいけない、となります。逆にそこを5割以上にしたら、それもまずいです。短期的に何もなくなってしまうので、だから短期には何%ぐらい、中期には何%ぐらい、長期に何%をまずバランスとった上で、というやり方をしているんです。

松江 一方で、5年、10年先に向けた投資へのモニタリングはどうされておられますか?

田中 投資の見直しも含めて毎年定期的に行っています。加えて、プロジェクトごとにマイルストーンを設定して、そのマイルストーンまでにやるべきことを目線に、やれてないと、なぜ、とか、それは修正可能か、という形でとことんやられます。予想してなかった、修正不可能となった場合どうしようもないですから、マイルストーンのたびに見直しも含めてかなり厳格にやっています。

 マイルストーンの長さはプロジェクトによって決めるのですが、だいたいは1年ぐらいで評価します。デシジョンボードがプロジェクトの実態を常にチェックしながら、「わかった、じゃ、次のマイルストーン、何月何日にやろう」という感じで決めていきますね。

松江 ある種の客観性というか、当事者の思い入れ関係なく、将来的な状況を見ながらクールに決めてゆくということですね。御社のガバナンスの特徴が表れている気がします。

田中 ガバナンスという点では、アメリカの会社ですからボードメンバー(日本の社外取締役)の力も大きい。取締役会の12人の取締役のうち社内からはCEOのエレン・J・クルマンだけです。残り11人は全部社外です。だから、日本語翻訳の「社外」取締役という言葉自体は、なぜ、わざわざ社外という言葉があるの? というのがアメリカのスタッフの感覚ですね。ボードメンバーは長期にわたるもの、それから投資が非常に大きなものに対しての決定権を持つので、社長、CEOで決められないものを決める役目がちゃんとあるんです。社外の人間が、将来的なこういう戦略でこういうことをやりたいということに対してOKとか、それはおかしいというぐらいの権利があります。

 本来は、取締役は、株主の代弁をする役目を持っていますので、将来的にこれは株主にとっていいかどうかを考えることが多いです。必ずしもそれがベストかは別として、アメリカはそういうふうにしていますし、長期的にどうする、こうするというのは取締役のほうが力を持った話で決まっていくということです。

松江 最後に一つだけ、田中さんのご自身のこの先のビジョンなど伺えますか?

田中 3つの分野の中の、特に高機能の分野、素材の分野の中で、日本は、世界の最先端を走っているところがいくつもあるのです。ですので、日本独自のもの、世界で初めてのものをお客さんとともに開発して、グローバルで展開できることをやってみたいと私は思っています。今もいくつかのプロジェクト計画が動いていますが、そういうことをやるほうが、日本にいる人間もやり甲斐を感じると思いますので、是非チャレンジしてゆきたいですね。

 (対談後記)
「自己変革力の秘訣-松江の視点-」


200年企業のデュポンを支えるコアバリュー、それは概念を超えて等身大で語れる行動まで落としこまれている。常に穏やかに自然体で語られる田中社長の言葉からは、浸透の積み重ねがありつつも既に理念がしっかり風土として根付いていることへの手ごたえが自ずと伝わってくる。“日本発オリジナルなもの”をどのようにグローバルに示すのか、は企業に留まらない日本の経済社会にとっての共通課題である。「制約ある中で工夫する技術」「顧客と一緒になって開発できる関係」などの日本固有の長所に着目し、それをいかに伸ばしグローバルに理解を得るか、規模では図れない貢献を数字という共通尺度で見える形でアピールする企業としての努力は、日本の経済社会の課題解決へのひとつの糸口を示唆している。

 

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