国語では「読みづらい」問題文が目立つ

 まずは国語だ。平山入試研究所の小泉浩明さんが登壇し、スクリーンに映し出された資料とともに解説していく。

 まず、「読みづらい」問題文が目立つようになってきた。読みづらいとはどういう意味か。漢字が多いとか、文語体とかそういった文体の問題ではない。書かれていることが理解しづらいという意味である。

 たとえば、豊島岡女子では宮島未奈の『成瀬は天下を取りにいく』が出題され、同じストーリーの違う場面が文章Ⅰと文章Ⅱで分かれており、視点人物が変わっていく。小説ではよくある型だが、小説を読み慣れていない受験生にとっては読みづらい……分かりにくいものであろう。

 また、問題文の中に、塾のテキストには出てこないような言葉が入ってくることもある。具体的にいうと、東京農大第一では鳥羽和久の『君は君の人生の主役になれ』を出題。この中で「ワンチャン」という言葉が出てくる。

 いわゆる若者言葉の「一回ぐらいはチャンスがあるかも」という意味で、テレビやYouTubeなどではよく使われているから、受験生も知っている可能性はあろう。しかし、その言葉が入試問題の活字で現れると、ピンと来ない可能性もある。

難易度の高い「2つの問題文を組み合わせた問題」や「考えさせる問題」も

横浜雙葉中学校
横浜雙葉中学校 出典:pixta

 また、2つの問題文を組み合わせる問題が増えてきて、2023年度は9校から出題されたが、今年は6校となっている。文章を組み合わせると、問題の構造が複雑になるので難易度が上がる。

 この2つの問題文を組み合わせた問題を今年出したのは麗澤、横浜雙葉、横浜共立、豊島岡、筑波附属、市川だ。6校中3校が女子の進学校である。女子校は国語において、難易度が高い問題を出すことが分かる。

 それと同時に、従来は物語文1問、論説文1問という組み合わせで2問出題することが多かったが、最近ではひとつの長い文章で1問を出題するケースも増えており、2024年度では13題も出ている。

 もうひとつ、この何年かで注目されているのが、考えさせる問題だ。今年、大宮開成の特待生選抜入試では、テレワーク人口の割合が増えているグラフを示し、それを見ての考察を答えさせる問題が出ている。

 2つの文章を合わせた問題や考えさせる問題は、学校側としては出したいが、問題を作るハードルが高いので、なかなか出せないのかもしれない。

算数は、試行錯誤の経験量が合否を分ける

 次に算数の入試問題分析は、みんなの算数オンラインの竹内洋人さんが解説した。全体としての傾向に大きな変化はなく、例年通りの出題傾向だったという。ただ、難易度が高くなっているのは確かである。

 解法の暗記で対応できる問題はますます減少傾向にある。過不足算(ある個数のものを数人で分けるときに、余りや不足が出てくる。この余りや不足から、人数やそのものの数を計算する問題)においてはもう典型問題が出題されなくなり、何かしらのひねりが入ってくる。過不足算の問題にひねりが入ると難易度が上がって、合否の分かれ目になる可能性が出てくる。

 また、「データの活用」問題も進化している。2023年度までの「データの活用」問題は「中央値って何ですか」といった知識を問う内容だったが、今年はその先を問うようになっている。立体の問題では、難関校の難易度は変わらないが、中堅校で立体切断系の問題も見受けられるようになってきた。

 どの入試にしても、根本的には「書き出す」「試行錯誤する」力が求められている。難関高だけでなく中堅校でも、高い論理性や算数の学力を問う難問が出題されている。 

 田園調布学園の算数1教科入試では、長文思考系の問題で、植物の幹に葉がついたイラストを提示し、葉っぱの位置などを問う問題だ。問題文は長いが読みやすく分かりやすい。麗澤では、分数の割り算はなぜ“逆にして掛けるのか”を説明させる記述問題が出た。

 なお、分野を見ると、難関校では場合の数や立体の問題が増えている。中堅校では和と差が増えた。

社会で求められるのは正確な知識と資料の読み取り

勉強をする男の子
出典:pixta

 社会では文教大学の早川明夫さんが登壇した。社会は全体的に易しくなり、難問奇問は極めて少ない。問題の形式では、様々なタイプの正誤問題が多い。たとえば「正しいものをすべて選びなさい」といった正確な知識が求められる問題が多くなっている。

 中学受験の社会というと、小学校の教科書を軽視する傾向があるが、教科書を参考にした問題も散見されるので、教科書をしっかりと勉強しておくことも重要だ。

 たとえば麻布では、江戸時代、藩校ではなく私塾へ勉強するために集まったのはどういった人たちかという問題が出たが、『小学社会6』(教育出版)に「(私塾では)武士に限らず百姓や町人も、国学や蘭学などの新しい知識を学びました」とヒントが書かれている。御三家の一角である麻布などでも、教科書をベースにした作問がなされている。

 一方、中堅校では絵を示し、それを読み解かせる問題も出ている。世田谷学園では、イギリスで職人が機械の前でハンマーをふり上げている絵を示し、この絵は何をしようとしているのか、その行動の理由を問うている。産業革命で機械化され、職を失った職人が機械を壊そうとしているシーンである。これは教科書には掲載されていない絵ではあるが、産業革命がどのようなものであるか、ということが理解されていれば正解に辿り着けるのではないだろうか。良問である。

 正確な知識と様々な資料を迅速に読み取る力を必要とする問題が増えている。渋谷学園渋谷では、東京新聞Webの記事を記載し、それを読ませて、「現在の世界の政治に関する説明として最もふさわしいもの」を選択肢から選ばせる。文章を読み込むだけではなく、現在の世界情勢への正確な知識や、選択肢問題を解くためのテクニックも必要な問題となっている。

 全体的に「問題文を読み込まないと解けない」問題が増えており、社会も「詰め込み科目」ではなく、読解力や分析力、批判力、表現力を求めるものになっている傾向が分かる。

理科は時事問題やトレンドの用語が問われる

 理科の入試問題の分析では、Tサイエンスの恒成国雄さんが登壇。全体として細かい知識を聞く問題は減り、問題文やデータを読み取って処理する問題が増えている。その場で問題文を読み込み、データを理解し、計算や考察をしていくような、見たことがないタイプの問題が増えているわけだ。説明文、図、グラフなどのデータが提示され、それをきちんと読み取る能力が求められる。理科の知識問題は減少傾向にあるが、塾で過去問をやり込んでいれば解ける「パターン問題」も減っている。たとえば、最難関の開成の理科では受験生が全員正解を答えられる問題が出て、理科では差がつかず、算数で合否が決まっているように思われる。

 次に時事問題だ。社会ほどではないが、理科でも時事的なテーマが出題される。今年、出題が多かったのは地震と暑さである。特に今年は地震がテーマの出題率が多かった。2023年5月5日、能登地方で発生した地震の影響があったと推測される。緊急地震速報が発表されてから何秒後にS波(大きい揺れ)が到着するかという問題が多く出題された。暑さに関しては、フェーン現象の風下側の気温を求める問題や、湿球温度換算表を利用する問題(乾球温度計と湿球温度計の温度差から湿度を求める)やWBGT(暑さ指数…乾球温度計・湿球温度計・黒球温度計による計測値を使って計算する指数)に関する問題が増加した。

 よく問われた用語としては、2023年6月に条件付特定外来生物に指定された「アカミミガメとアメリカザリガニ」。2年ほど前から急激に出題が増えている「線状降水帯」(発達した雨雲が連続発生して列をなし、一定の時間、同じ場所を通過もしくは停滞して作り出される、線状に伸びる強い降水域)。そのほか「ヒートアイランド現象」「食物連鎖」「カーボンニュートラル」「エルニーニョ」「ラニーニャ」「ハザードマップ」などが挙げられる。

 恒成さんは和洋国府台女子1次で出題された「スペースデブリ」について、教え子が知っていたので何故かと聞いてみたところ、「アニメのガンダムを見て知った」と話したとのこと。受験勉強だけではなく、普段の「遊び」の中にも知識を深めるような内容が潜在しているようである。

まとめ|中学受験における入試問題のトレンド

 全体としては、知識を問うのではなく、読解力や分析力・判断力を問う傾向がより強まっている。小学生の読解力の低下が話題になる中で、中学受験ではどんどん高い読解力を求めるようになっているので、それに向けた対策がより大切であることが分かった。