共通テストは国立大学医学部の第一関門
会場は渋谷のセルリアンタワー東急ホテル。500席の8割以上が埋まる盛況ぶりで、保護者たちは熱心にメモを取り、受験生たちも真剣に話に聞き入っていた。
第1部は「医学部入試の傾向について」で、駿台予備学校 入試情報室部長 石原賢一さんが登壇。石原さんは大学入試分析のエキスパートで、メディアにもしばしば登場し、コメントを寄せている。国公立大学医学部受験を中心に話が進んだ。そこでまずは、国公立大学医学部受験の第一関門である共通テストを中心に石原さんのお話を紹介しよう。
大学受験人口はピークの1992年は121.5万人だったが、少子化の影響で、2024年は64.1万人である。しかし、国公立大学医学部入試は基本的に6教科8科目が課されるために対策が重要になってくるし、共通テストで1点でも多く取ることが合格につながってくる。特に後期試験は、個別試験(共通テストの後で大学が個々に行う試験)が小論文や面接などが中心になることもあり、共通テストの点数で合否が決まるといっても過言ではない。後期のみの募集をする山梨大学や、前期も個別試験が小論文のみという奈良県立医科大学を受験したいならば、共通テストの対策はより重要になってこよう。
また、国公立大学医学部入試ではまず、共通テストで受験者を絞り込む第一段階選抜が行われる。多くの国立大学医学部が採用する倍率方式の第一段階選抜ではハードルを上げ、個別試験の受験生の数を絞り込む傾向がある。受験生を少数にすることで、面接を丁寧にする大学が増えているからだ。そのため、共通テストで点を取らないと個別試験を受けることすらできない。共通テストが医学部合格の第一関門であることは間違いない。
その共通テストの2024年度の傾向としては、各科目で問われる内容の難易度は高まっていないが、問題文は長くなる傾向にあり、複数の文章や図表を提示して解かせる問題が増えている。実社会に即した題材も増えている一方で、国語では一時期、話題になった契約書を読み解かせるような実用的な文章の出題はなく、今後も出ないかもしれない。
全体の傾向として、過去問をやり込んでパターンを習得するだけでは解けない問題が増えている。まず、読解力が必須で、それをもとにした分析力や判断力を問われる問題が多い。今後も手を替え品を替えで、受験生にとっては「初めて見る問題」が出ることが予想される。
2025年の共通テストでは「情報」が追加
そして、2025年の共通テストで注目される点は、新課程に対応した内容になることだ。まず、新しい教科として「情報」が加わる。また、数学IIでは「数学II、数学B、数学C」の1科目のみの出題となり、出題範囲が広く、試験時間も70分になるため難易度が高くなりそうだが、一方で理科や英語は大きな変化はないと予想される。
さらに、共通テストは2024年度は1月13日と14日であったが、2025年度は1月18日と19日と遅くなって、私大の入試と近くなる。そうなると気持ちの切り替えが難しいので、初めて受験をする現役生は不利になる可能性がある。今からイメージトレーニングを積んでおくことが大事だ。
受験生は日々、学力を伸ばしていく。模試や共通テストの点数が期待通りではなくても、そこで落ち込んでモチベーションを落とさずに、勉強を続けることで受験直前まで成績は上がっていく。そのためにも第一志望は変えないことが大切だという。国公立は共通テストの結果が出るまでは変えさせない。私大は第一志望を必ず受験させる。それによってモチベーションを高いところで保つことが重要とのことだ。
学校での勉強を大切にすることが合格への第一歩
その厳しい医学部入試を乗り越えて、医学部に通っている現役生たちは受験をどう振り返っているのだろうか。第2部は「現役医大生インタビュー」で、4人の大学生たちが登壇をした。メディックTOMASでT.A.(ティーチングアシスタント)を務めている学生たちだ。
4人とも明確に医師になりたいという目標を持ち、医学部合格に向けての勉強は高校2年生から始め、英語と数学は2年の末までに仕上げ、3年からは理科に力を入れ、夏前までに理科を含めたの全教科の基礎を完璧にすることを目指した。
「高校3年になると時間がなくなるので、数学は2年までにじっくりと解けるまで取り組みました」(御三家出身・私大医学部学生)
今回、登壇した4人はいずれも御三家などの難関校出身。難関校の生徒というと、学校の勉強よりも塾での学習を優先しがちに思えるが、実際には学校の勉強が受験の役に立ったというコメントが目立った。
「高校2年から本腰を入れて受験勉強を始めましたが、1年までの学校での勉強の蓄積が基礎力となりました」(難関男子校出身・難関医学部学生)
「学校の英文法の授業での勉強がとても役に立ちました」(女子御三家出身・私大医学部学生)
また、基礎を固めることの重要性を語るコメントも。
「数学では『4STEP』(数研出版)という問題集で勉強しました。基礎から発展までさまざまな難易度の問題が載っています。この問題集を2周3周と繰り返して解いていくと、『この問題はできるからやらなくていいや』と飛ばしてしまいがちです。しかし、そういった一見して解けそうな基礎的な問題こそ、一定の時間内で正解できるかを試す必要があります」(女子御三家出身・私大医学部学生)
「集団塾に通っていて、まだ基礎ができていないのに難問ばかりを解いていて、うまくいきませんでした。そのため、現役合格ができませんでした。そこで浪人して基礎からやり直したら、難問も解けるようになっていきました」(最難関女子校出身・私大医学部学生)
最後に4人はT.A.としての体験を話した。
「自分は積極的に質問に行けない性格で苦労をしました。個別指導ならそういったためらいがなく、何でも講師に質問できるのがいい」(女子御三家出身・私大医学部学生)
「一対一だと生徒の歩幅に合わせて指導できるのがいいと思います」(難関男子校出身・難関医学部学生)
私立医学部では脱「物理と化学」。生物有利の入試も
第3部は「2024年度 私立医学部入試最新分析」をメディックTOMAS市ヶ谷校の校長、萩原一裕さんが解説した。
まず、模試でA判定を取っても不合格になることが多々あるという。受験する大学が何を求めているかを押さえ、それに応える必要があるからだ。国公立大学医学部入試は共通テストが大きな比重を占めるので、対策はある程度共通する。しかし、私立大学は各大学が行う入試がすべてなので、対策もすべて違ってくる。学力が高くても、その大学が求めるものを提示できなければ、あっさりと残念な結果になってしまうのだ。たとえば、順天堂大学医学部入試の英語では200語のエッセイを書かせる。その対策を必ずしなければならないだろう。
医学部を卒業すると、その医学部の医局に所属し、医師として研鑽を積む。つまり、医学部入試は就職試験の意味合いもある。そのため、建学の精神や学是(教育上の根本的な精神として定められたもの)をしっかりと調べ、対策をする必要がある。個別面接やグループ討論などが課されるが、後者では話す力だけではなく、他の参加者の話をちゃんと聞く“傾聴力”も必要となる。医学部入試は「採用試験」の要素があるから、学力以外の部分も必要となる。
それでいて、もちろん高い学力が必要とされるのは昔も今も変わりはない。ただ、その学力の質は変化している。
かつては医学部受験というと何年も浪人をして入学する生徒が多かったが、今は現役が中心になっている。大学側も現役合格に配慮し、きちんと基礎を固めてきた受験生が受かるような試験にしているのだ。
中堅大医学部では「基礎重視」の傾向がより強くなる。難関大医学部ではその基礎の組み合わせを施した問題が出され、慶應医学部は計算が煩雑で高い処理能力を求める傾向がある。後者は問題が複雑になるため、より高い読解力や判断力が必要とされるが、知識面で問うていることはあくまで基礎であり、昔のようにマニアックな知識を問うことはない。
また、かつては医学部に合格するためには理科は物理と化学を選択する必要があったが、今ではそれも変化している。中堅大学においては、理科の選択科目で生物のほうが物理よりも有利なケースが増えている。医学部入学後に学ぶのは生物学系の内容なので、生物を選択した受験生を採用したいのだ。生物の素養がある生徒は、大学のカリキュラムにスムーズに対応できそうだと期待できるからだ。「最短で合格するために、計画を立て、逆算して勉強をしていくことが大切」と萩原さんは締めくくった。
医学部志願者は学習習慣が身についている生徒たち
会の終了後、萩原さんにインタビューすると、こうも答えてくれた。
「今、学習習慣をつけるところから教えるということは減っていますね」
つまり、現在の医学部受験は、「医師になりたい」という明確な目標を持ち、コツコツと日々の勉強ができる生徒たちのものになっている。その努力する習慣が身についている生徒たちの中で、どう差が出るのか。
「受験自体はハードルが高くなっていますが、入試問題は基礎が中心になっています」(萩原さん)
基礎固めをすることがより大切になっているが、苦手分野はなかなか克服できないこともある。
「個別指導塾のメリットは苦手分野の克服ができる点です」(萩原さん)
きちんと努力できる生徒に弱い分野があるのは、その分野に関しては自学自習だけではマスターできないからだ。集団授業では個々へのフォローがないから、苦手分野はそのままになってしまう。その点、個別指導塾ならば、なぜ苦手なのかの分析から対策までをしてもらえる。
医学部入試も、基礎的な問題が中心になってきたということは、苦手分野を作らないことが大切となる。なぜなら、基礎的な問題では点差がつかないので、いかに取りこぼしがないかの勝負になるからだ。
医学部入試は難化している。しかし、かつてのように多浪をしなくても、きちんと努力して基礎を固めれば合格できるものになっている。一方で志望する医学部の入試分析を行い、きちんと対策をしていく必要性は強まっており、医学部対策塾はその良きサポート役となる存在になりそうだ。