大学の教室は変化を先取りしている

 一昔前の卒業生がいまの早稲田大学に行ったら驚くかも知れません。早稲田キャンパスも戸山キャンパスも、校舎の多くは建て替えられました。その際、教室のあり方も大きく変わっています。いまや、早稲田大では定員が50人以下の教室が8割を占めています。その背景には、中堅・若手の教員が、大人数の教室では教育に責任を持てないと言い始めたことがあります。

 なぜそうなったのでしょうか。これは新しい学習指導要領でも主軸に据えており、中学で20年から、高校では21年から実施されている学びのカタチの変化を反映しているからです。授業が知識伝達型から討論型に移行したときに「豊かな授業」の概念も変わることになります。

「豊かな授業」の概念が変われば大学の入学者選抜も大きく変わることになります。学力試験で合否を決めることは、ある一定の均質な学力層を入学させることでした。階段教室に象徴されるような一斉授業では教える内容の焦点を定めやすく、効率が良いからです。

 しかし、討論型の授業でそれは通用しません。均質な学力層によって同じような意見が出る授業よりも多様な意見が出るような授業の方が「問い」が生まれやすく多面的に事象を捉えることができるからです。

 学校の校舎を見れば、どのような教育をしようとしているのかがうかがえます。ところが、残念ながら校舎を新築しても階段教室中心という大学もあります。そんな大学のある教員が言うには、大規模定員の教室が階段教室しかないので、そこで討論型の授業をしているそうです。高低差のある前後の学生でグループを作って議論をするのですが、前方に座る学生は体をよじって後ろを向くしかありません。少し体が大きな学生はかなりつらい姿勢で議論に参加しているわけです。

「豊かな授業」とは多様な意見が出る授業となります。私立の中高一貫校が新しい教室を造ったとき、そこで多く語られるのは生徒同士が交流できる場をできるだけ多く確保したいという姿勢です。もはや板書を書き写すだけの授業では生徒に見放されます。

 教育が変われば、教室のあり方も変わる。そして、入学者選抜のあり方も変わっていくことでしょう。