教科書レベルでは見かけない問い
石田 第5問(3)では、太朗と花子の会話が出てきます。これを読みながら、(1)と(2)の結果を用いて、与えられた条件の下でのベクトルの大きさを求めることが要求されます。そしてさらに、これと等しい大きさを持つベクトルを求める問いが続きます。この辺りの処理量の多さは受験生には厳しかったでしょう。加えて、最後の問いは、(2)での領域に関する問いを処理する中で場合分けがあることに気が付いていること、そして、その図のイメージを振り返ることが必要でした。これができていないと、太郎と花子の会話の意味が分からなかったでしょう。
このように第5問は、数学的根拠に基づいて、さまざまな状況について漏れなく考える力が必要となります。時間内で最後まで完答するには、かなりの実力が必要と思われます。
――最後に、第3問を見ていきましょう。こちらは確率分布と統計的な推測を扱っていますが、問題文が5ページで、最後の1ページは正規分布表です。
石田 この問題を選択する受験生が多くないため、第3問は世間ではあまりきちんと分析されていないように思うのですが、今年の問題はこの単元の理解を深く問う問題で,かなりの実力を要求する問題だったと思います。ただ、他の2つの選択問題よりも処理量はかなり少ないので、深く本質まで理解できていれば、この問題の選択が有利だったように思われます。
第3問は、収穫されたジャガイモの中に一定の重さ以上のものがどれくらい含まれているかを推定する問題です。(1)、(2)は基本ですが、正規分布についての正しい理解がないと、教科書レベルではあまり出てこない数値が扱われているので戸惑ったと思います。
(3)では実際のデータに対して数学的モデルを導入し、データを定量化して扱うという見方が使われています。このような処理は数学IAの施行テストの中で以前に扱われていたのですが、この統計的推測の単元で取り上げられたという点で目新しかったといえます。やはり、与えられた方針の読解がポイントとなり、確率密度関数の定義・意味といった本質的な理解が重要となりました。
誘導が与えられていたとはいえ、確率密度関数から積分を使って期待値を求めるという作業は、教科書レベルではあまり練習していないと思われるので、本質的な理解をしていなければ対応できなかったのではないでしょうか。
また、最後の一定の重さ以上のジャガイモの割合の推定での計算は、確率密度関数のグラフ内での面積の割合を求めるのだから、積分を実行するのではなくて、図1のように算数的に考えられると、すぐに答えが出るようになっています。ここも複眼的な見方が求められていたと言えます。
――2回にわたって、第2回共通テストの数学問題の分析を行いました。中学受験に向けて学ぶ算数が、こうした大学入試やその後の人生にどのようにつながっていくのかについて、実際の入試問題も交えながら、次回は考えてみたいと思います。