問題文の長さだけではない難しさ

――設問の内容にいささか理解しづらい点はありませんでしたか。

石田 自転車が歩行者に追いついては、また自宅に戻ることを繰り返す、という状況設定なのですが、これは共通テストが念頭に置いている「日常生活の事象」なのか、という点はやや無理があると思います。

――“リアルさ”にあまりこだわるよりも、考え方をいかに問うか、なのでしょうか。

石田 そもそも、共通テストが求めている力のポイントは、「具体的なもの」から「本質を抜き出す」ことにあります。その意味で、私自身は「日常生活の事象」にこだわる必要はもともとないのでは、と思っていました。私も作問をしていますが、実際の日常生活を元に問題を作る作業は非常に大変です。この点での問題作成の難しさが出てしまったのかな、と思います。本問のような「”擬似的な”日常生活の事象」を扱う問題は、今後もありうるのではないでしょうか。

 問題の処理としては、会話形式によって2つの数列の関係式を見つけるための手法が2つ紹介されています。第1問の〔1〕でも同様の設定がありましたね。ここでは、相対速度の考え方の方が処理量は少なくて済む、という判断が必要です。また、グラフ上で図形的に考えることも、処理量を減らす上では大切になります。このような複眼的な見方が、時間内に処理するためには必要だったと思われます。

 これらの作業を通じて、やっと教科書や問題集で見かける標準的な問題(いわゆる「焦点化された数学の問題」)が現れてきます。最後に、この結果を使って「自転車が歩行者に追いつく」回数と時刻を求めさせますが、先に求めた数列が「自転車が自宅に戻った時点での」時刻と位置であることをしっかり理解していないと、誤答してしまうように作られています。「計算」よりも「式や文字の意味の理解」を求める問題の作りとなっているわけです。

――第5問はベクトルを扱っています。これも難しかったようですね。

>> 第5問 問題はこちら

石田 この問題は、“内積の値が負のときの角は鈍角になる”という定性的理解がまず必要でした。∠AOBが鈍角であるとして図を書かないと混乱したかもしれません。この点をクリアさえすれば、(1)は基本問題となります。

――ここでも、図を素早く手書きできることが大切になるわけですね。

(2)では、与えられたkという文字定数が正であると思い込んでしまうと、正しい図が書けなくなってしまうようにできています。図を書く際に、こうした思い込みをしていないか、常に注意深く意識する姿勢が求められます。

 後半は、点Qが平面内のどの領域にあるかを問うという、あまり見ない出題形式のため、戸惑った受験生は多かったと思います。前半で求めたkの式を用いて、点Qの位置を表し、その式の意味するところを解釈する、という誘導だったと思われます。これも、得られた結果を「統合的・発展的に考え問題を解決する」という方向性の表れでしょう。しかしその一方で、tの値の意味を考えながら図を書いてみてもすぐに答えが得られます。「複眼的なものの見方」が重要になっています。