関西の大震災が入試シーズンを直撃
――「サンデー毎日」の記者でまず3年間というと、関西の震災の時期も含まれますね。
中根 1995年1月17日の阪神・淡路大震災は、大学入試と重なりました。関西地区の情報が全く取れなくなり、特集を出すことができるのか、という話にもなりました。そのため、編集部の記者は全員、被災地取材にかり出されましたが、私一人だけが現地に行かなかった。被災した各校には、ゴールデンウイーク明けにようやくご挨拶に行けました。
後藤 大学入試センター試験が終わった直後で、河合塾でも自己採点結果が集まらないと騒いでいました。河合塾は教育情報部が情報提供のセンターになっていて、共同通信などが僕らの調査を聞いて配信する。立命館大の対応が早くて、被災者の受験料をすべて無料にしたことに始まり、河合塾にどんどん情報が集まってきました。
当時はマスコミよりも予備校に伝える方が早いと思われていたのですね。私立大の出願期間でもあり、われわれはすぐに一覧表を作って公開しますから、そこから漏れてはいけないと、大学側も積極的に連絡してくれました。
中根 3大予備校に加えて、いまはほとんどなくなってしまいましたが、大阪の地場の予備校にも連絡を入れて、取材もしました。灘中高出身である安田さんのネットワークでの情報も貴重でした。
――その頃から、個人情報の保護に関する議論も出始めていましたね。
中根 合格者と思われる生徒本人に直接確認していくわけですが、難しい人には社員である私たち記者が対応しました。「個人情報をなんで言わないといけない?」と弁護士が出てくることもありました。
私立高校の場合は、女子の伝統校で一切出さない学校もありました。いまでは公表するようになってきましたが、そうした学校にも、毎年秋にはご挨拶の電話をする。
後藤 進路指導の先生が交代すれば出てくるかもしれない。
中根 本当にその通りで、公立高校では、ダメだと言っていた担当の先生が代わるとOKになったりします。その代わり、その“難敵”の先生が異動した先の高校では出てこなくなる(笑)。
後藤 公立高校の場合、校長や教頭がOKと言っても、担当教員の判断次第です。
中根 主みたいな担当の先生でひっくり返ってしまうこともありました。面白いもので、同じ担当者であっても、毎年電話していると対応が代わることもあります。1年目ダメで、2年目もダメ。3年目で出してくれるようになった学校もあります。
後藤 国公立の進学校で、伝統校は出にくいところが多かったですね。大学合格のために授業をしているわけではないとか、どこを受けろとかいう進路指導はしていないから結果も生徒には聞かないとか。「進路実現」とか「大学合格実績」とか「現役合格率」とかに一生懸命な、いまとは大違いです。現在では、公立進学校が重点を置くところが変わったんですね、保護者や地方議会のニーズで。
――このように名前が出ることは、生徒や保護者の立場からするといかがなのでしょう。
中根 いろいろですね。本人は軽く承諾してくれたのに、親が断る例もありました。調べてみると、関西の高級住宅街の大豪邸のお嬢さんでした。東大理IIIに受かった受験生の親が医師だったときには、寄付の依頼が来るのでやめてくれと。そういう場合には出せません。
後藤 個人情報保護法(2003年5月公布・施行)の時が一番の危機でした。その審議が進んでいた2001~02年の頃が一番大変で、高校も非協力的になってきて。
中根 その頃の編集長が、「東大合格者のシリーズをやめる」と言ったこともありました。大学通信にとっては死活問題。「それは勘弁してくれ」というので続くわけです。大学通信は元々広告代理業から始まっており、「サンデー毎日」も広告を入れたいということから、一緒にやるようになっていったわけです。半年間、安田さんも井沢さんも、大学通信には行かずに毎日新聞の社員のように働いていました。
(続く)