受験生の学力担保と進路選び

中根 以前から取り上げてきましたが、学力試験による選抜型から育成型への転換を掲げている追手門学院大の総合型選抜入試の一つ「アサーティブ入試」や九州産業大の「総合型選抜(育成型)」のような、高大連携による入試をもっと大事にしてもらいたいと思っています。

後藤健夫(ごとう・たけお)
教育ジャーナリスト&アクティビスト。1961年愛知生まれ。南山大学在学中から河合塾に。大学卒業後に就職して以来、東京で勤務。その後、独立。早稲田大学や東京工科大学での入試関連業務に従事する一方で、経済産業省や自治体のプロジェクトなどにも参画。

後藤 それに加えて、高校の付ける評定平均値で合否を決めちゃいけないないんです。高校の成績はローカルルールであり、生徒の学習を支える意味合いがある。全国的な順位付けには使えないんですよね。指定校推薦を高校の評定平均値を基準にして一律的に推薦を求めるなんて、大学進学率が20%の頃からの惰性です。選抜方式の在り方を時代に合わせて考えない大学業界の怠惰なところです。

 まぁ、入学者確保のために、その基準がどうでも良くなった大学も散見されますけどね。高校による推薦枠をなくして、評定平均値の緩い基準を満たしていれば何人でも良いなんて大学もあります。そうした大学には選抜機能がほとんどない。そういう時代に突入しています。

 一方で、立命館大は、数学を入学前に学んできてほしいから、学部によって単元を決めて、基礎学力を学ばせるためにAI先生で売り出している「atama+」を活用するというのです。

 でも、そんなことより、総合型選抜の要件として、数学の基礎学力テストを入れればいいと思います。

――何を持って、基礎学力を担保するかですね。

後藤 「atama+」にしても、誰が受講しているか分からない。替え玉受験はできますから。入試の不正行為はどうしたってなくならない。そこは受験生本人の倫理観でしょうし、学校が教えることは、1点でも多く取りましょう、ではなくて、ちゃんと学びましょう、ちゃんと受験しましょうということになるのでしょう。

 早稲田大の田中愛治総長が、以前、記者会見で言ったように、本当に「(学力試験の)1点、2点差は意味がない」。これからの私立大の一般選抜入試は、一部のトップ大学を除けば落ち穂拾いになっていく。私立大は一般選抜では、合格発表までの時間がなくて論述試験を課せないと主張しているけど、合格発表まで2カ月間ある総合型選抜に定員のメインを移して、高校の授業進度に縛られるコンテンツベースではなく、どのように考えているかを審査するコンピテンシーベースに切り替えて、「高度な記述式問題」を課せばいい。そうすることで不正も防げます。

 共通テストでも「知識の活用」を意識したコンピテンシーベースになっていく。高校のカリキュラムの項目や単元を問うことをやめるのです。知識はため込むものではなく使うものだとなると、日本史で履修範囲を終えていないからと、近現代を出題できないなんてことはなくなります。

中根 入試の早期化で、中高一貫校に限らず、高3は受験対策に当てられたりしていますし。

後藤 高3は総合型選抜を含めた受験対応で「大学入学準備期間」になっている進学校は多いんですよ。民間4技能検定を求められる生徒は、高2の終わりまでに英語の学力を大学の要件に合うように準備しています。

中根 教育の現場でいま対立が起きているのがまさにそのことです。文法ベースの教え方で成功体験を持っている英語のベテラン教員は、自身の英語運用能力がアップデートできていないし、4技能に切り替わることもできない。

後藤 それも含めて、求められている学力というものがもう変わった。これが本来の大学入試改革です。4技能の導入に失敗したとか、共通テストで論述がなくなったから「大学入試改革が失敗した」ということではありません。

 共通テストの論述は、課題解決をさせることが目的にありました。実施されたものを見ると、マークシートでも課題解決を求めており、実はこけていないのです。25年度の完全実施を目指して、私立大でも入試問題や出題科目を変えることを考えていると思います。今回の改革は受験生に問うことを変える「出題改革」とも言えますから。いま、大学入試で数学を課すと補助金をもらえるそうですし(笑)。

中根 4月から芝浦工業大学柏の校長に就任しました。生徒数約1500人に教職員約100人強で、1980年に開校した学校です。

 柏から流山にかけての一帯には、中学を併設している千葉県立の東葛飾や、東京大と千葉大の柏キャンパス、国立がん研究センター東病院があります。23年度に流通経済大が付属中学校を開校しますし、その年の秋には英国のボーディングスクールであるラグビー校の日本法人もここにできる予定です。

 この柏地域で、地盤沈下しないよう、新しい風を吹き込むというのが私の使命となります。 

後藤 教育の潮流が変わるときです。応援しています。そして、ご活躍を楽しみにしております。